(1994年9月22日、立教ミステリーへのインタヴューから抜粋)

−−どこかでホログラム装丁という話を聞いたんですけれど。

島田  うん、その話はありました。シリーズが「アトポス」にいたった時、戸田さんが、前からやってみたかったことがあって、それはホログラムを本に巻いちゃう方法なんだって言ったわけです。これは表紙にホログラムをぽんと一枚貼りつけるような平凡なやり方ではなくてね、表一から表四にかけて、ぐるっと巻いちゃうんだと。しかもそうしておいて、これを箱に入れる。

 これはすごい装丁でね、箱から本を引きだすと、透明なガラス箱が出てくるように見えるんだよ。そしてこう本を手に持って、あれこれ角度を変えてみると、このガラス箱の中に、何か三次元の立体が入っていているように見える。そういうことをやりたいんだと彼は言ったわけです。これをやっていたら、みんなさぞ驚いたでしょうね。

 でもね、これは技術的には可能でも、重版がむずかしくなると言われた。営業的に折り合わない。増刷になって、三千部とか二千部ずつ刷っていったのでは、出版社に利益が出なくなるんです。だから将来の増刷を推定して、カヴァーだけは初版時に、予想される部数分全部刷っておくとか、もしくはいっさいの増刷をしないと決める、そういうことしかないんですね。

 だからたとえば一万部だけ刷って、もう増刷はいっさいしないということにすれば可能だと、そういう結論に達したわけです。そういう本というと、これは愛蔵本ですね。つまりこの箱入りホログラム装は、愛蔵本向きのアイデアなんですね。少なくとも現時点では。だから前から言っている「樹海都市」という短編集を造る時に、これを限定愛蔵本という形にしてホログラムを巻こうと、この時はきっとやろうということにして、あの時は見送ったんです。

−−CDみたいですね。やはり初回限定版でホログラム装にして、二回目以降はモノクロの写真に替えていたのがありましたけど。

島田  ああそうですか。でもこの装丁はいつかきっとやれると思う。ぼくがあと二、三編短編を書いて、「樹海都市」が完成したらね。

 でもこの時ホログラム装は見送ったけど、箱入りというアイデアだけはキープして、それで「アトポス」のあの装丁ができたんです。