2000年11月29日
 島田荘司です。地獄のロードを抜け、ようやくSSKに復帰しました。みんなに報告しなくてはならないこと、たまっています。ニュースも多いですよ。  まず「季刊03クリスマス特集号」の仕事は実にハードでした。そのためにT橋編集者は倒れたくらいですから。しかしなんとかやり遂げられ、今頃は印刷製本されている頃でしょう。クリスマスの10日ばかり前に、本屋さんの平台に届けられる予定です。内容など詳しくは「季刊ON−LINE」の「百万人の伝言板」(オーバーやな)、「奇想の源流」の「LAからの手紙」などを覗いてみてください。
 友人の御手洗潔氏に、こんなにたくさんの誕生祝いのメッセージ、ありがとうございました。石岡君流に言うと、あんな勝手な男なのになと思い、たいそう感動しました。私にとっても何よりの力です。北欧で、彼も彼なりに喜んでいると思いますよ。このBBSを覗くように言っておきます。
 BBS、いっとき荒れていたそうで心配していましたが、また楽しい雰囲気に戻ったようでよかったです。みなが真摯に熱い議論を闘わし、道徳と秩序を追求し、日本の価値観に照らす限りは何ひとつ問題のない行為から場が荒れるということ、これこそはわが親子関係、教育現場、また社会の投影図ですね。私を含め、われわれはここから多くを学ぶべきです。21世紀、ほかならぬこれを避けたいのですから。
 では楽しく、しかもセンセーショナルな話題を。長く捜していた幻の原稿、Rodger Garric−Steele氏の話題の「コナン・ドイル殺人事件(原題、The House of Baskerviles)」の原稿が、ついに見つかりました。433ページにも及ぶ大作です。ロンドンのブック・フェアに、生原稿の形で現れました。まだどこでも本になってはいず、したがって2チャンネルなどで流れていた「世界20ケ国同時発売」という噂は、私が知り得た限りではガセのように思われます。
 全コピーはすでに私の手もとにあり、同じものがPattyさんの手もとにも送られ、昨日届きました。現在唯一のハードルは、まだ南雲堂が版権を完全に押さえられていないということです。ただ手の打ちようが早かったため、現在南雲堂が行列の先頭に並んでおり、交渉は開始されていますが、発見と同時に案の定日本の出版社の列ができたようですから、資金力のある大手が、法外のアドヴァンスを提示するなどという展開でもあれば、ほかにさらわれる危険は残っています。したがって、完全確保まではあまり外部に口外しないてください。うまく獲得できれば、ただちにPattyさんに翻訳作業に入ってもらいます。SSKから初の翻訳家を出すため、みなさんも獲得を祈ってあげてください。そして実働の段階に入れば、その時は大いに宣伝してあげてください。
 内容について少しだけ話します。疑惑の事件は1907年のこと、犠牲者はバトラン・フレッチャー・ロビンソンという人です。ボーア戦争時、南ア支局の特派員だった人物で、雑誌「バニティフェア」の編集長でもあり、ホームズものの名作「バスカヴィル家の犬」の原案者でもあった。そういう彼が妻のグラディスにアヘンで毒殺された疑いがあり、このアヘンをたやすく提供できる位置にいた者が、ほかならぬドイル氏であったという疑惑です。グラディスはドイルの愛人だった時期があり、警察のロビンソン氏検死作業はいささか杜撰であった。ギャリックスティール氏は、この疑惑を十一年間追い続けてきているということです。
 事実なら、英国の印象さえ変わりかねない大事といえます。いずれ別所で展開しますが、ドイルという人の半生は、良い意味でも悪い意味でも19世紀型の英国そのものでした。今後の展開に注目していてください。うまく実働に入れたなら、G−Rや南雲堂のサイトで、Pattyさん自身が作業経過を随時報告してくださるでしょう。
 この原稿が押さえられる可能性が出たこと、かつて「御手洗パロディ・サイト事件」が、ネット世界でさんざん陰口を言われながらも成功裏に展開したこと、またSSKには作家が多いらしいこと、などなどから、現在南雲堂で「SSKノベルス」というシリーズを立ちあげようかと企画しています。南雲社長ももっかのところ了承してくれています。最初は御手洗さんの名を前面に出したパロディ、パスティーシュである必要があるでしょうが、この作者が読者を掴んでくれれば、徐々に彼、彼女のオリジナル作品に移行してもらえればよいと思います。
 G−Rのチコさんだったかの書込みで、創作意欲が低下した際、みんなどう対処していますか? という問いかけの親記事に、たちまちずらとレスが並んだのを見て、なんだ、みんな作家だったのかと大いに驚きました。SSKノベルスが、そういうみなの活躍の場、作品発表の場になってくれればと考えているところです。
 もっかSSKのみなは、決して礼儀の嘘でなく、各自充分な本音の深みから、暖かく対応し合っています。ひきこもり、教育の荒廃、家庭内別居、ドメスティック・バイオレンスなどというわが痛々しい現実を見る時、SSKのこの空気はすこぶる貴重に感じられます。しかも集まってくれている人たちの多くが作家予備軍なら、私はみなを家族のように大事に感じます。この中から才能が複数育ってくれるなら、21世紀のよりよい日本人社会に向け、みなで何かができるかもしれないとまたしても甘い空想を抱きます。SSKは、もっか私の夢ですね。この夢がどこまで育つものか、またぞろ冒険をしてみたくなりました。
 期待しすぎてはいませんし、急いでもいません。こういう発想ははじめてではないから、現実の苦さももう充分に知っています。甘いと笑われた経験なら、私は全世界の誰にも負けません。しかし創作に献身し、みんなしばらく私についてきてくれたら、嬉しく思います。チコさん、あなたも自作の漫画、南雲堂に送っておいてください。御手洗のパロディがあればむろんそれがいいですが、オリジナルでもいいです。是非拝見したいので。
 SSKノベルスがスタートできれば、育った才能はもっとメジャーな場所に進出してくれるのはよいことですし、私もそう期待します。が、南雲堂のため、時には古巣に戻ってSSKでも書いてもらうなんてことができたら、南雲堂のためにもいいだろうと想像します。
 もうひとつニュース、私の古い友人である石川良さんという脚本家が、私の昔のショートショート作品「ガラスケース」を戯曲化して、「かつしか演劇祭」というイヴェントで公演してくれることになりました。
 日時は、来る12月2日(土)夕方5時半頃より。他の二つの演劇と一緒にやるようです。劇団は「麻生塾」、坂(ばん)俊一さんという役者さんが主催している劇団だそうです。入場無料、場所は亀有駅前「かめありリリオホール」というところ。問い合わせ先は葛飾区教育委員会生涯学習課、tel・3695−1111、だそうです。小規模な練習劇のようなものらしいですが(違ったら失礼だな)、私はアメリカで行けませんので、誰か近くの方いらしたら、是非観てきてくださいね。
 作家でもある石川良さんは、とても才能がある人ですから、きっといいものに仕上がっているのではと期待しています。それから石川さん、もしこれ覗いていたら、親記事にてこの説明の補足をしておいてください。ではまた。
 
 
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