2000年6月12日のMail。
船引さん、
メイルと作品受け取りました。これは素晴らしくよくなりましたね。この水準のものが、これから先コンスタントにできていくなら、船引さんはプロとしても充分にやっていけるでしょう。
気づいたこと、以下で重要度の順に述べます。
1、 ピエロのペンダントのアイデア、よいです。しかしこれが出てくるなら、もう一歩先に行きたいものです。こういうのはどうでしょう。
車に当てられた瀕死の博子、口からゴボゴボと血を噴き出していた。それが口の周囲に真赤について、一瞬ピエロの顔に見えた。辻森、悲鳴をあげ、顔をそむける。急いで車のトランクに放り込んでしまう。とても病院に運ぶ気になれなかった。
小学校三年生の時に観たサーカスのピエロ、「いいかげんにしろよ馬鹿」と辻森に言った。ピエロの顔の博子もまた「馬鹿」と言った。
公園でパントマイムを演じている淳のピエロ、口の周り、ドーナツ状に赤く塗っている。
2、米井さんがもし横浜の人なら関西弁というのは違和感ありますね。このままにしたいなら、「横浜に住んで長いのに、この人はいまだに関西弁が抜けない」と一言書いておけばいいし、少ない会話ですから、関東弁に直してもいいでしょう。
エピローグでのケーキのやりとりは、これ自体は悪くないのです。事件そのものがもっと異常な性質のものであったり、解決した時にホーッというような心地よい疲労感が長く続いているようなら、あれが入っていても充分持ちますね。
淳が、自身の素性を明かさずに連れの二人に辻森について尋ねるくだりは、非常にうまく行きましたね。これはよいできです。
横浜の地理に関しては、私はこれで違和感は感じませんでした。
「レフト・アローン」を生かす方法について述べると、このタイトルは、話せない主人公「淳」について言っているわけですから、彼の比重をもっと圧倒的に増せばいいわけです。たとえばリョウは、冒頭ごくわずかに登場して、ラスヴェガスでパフォーミングしている淳をテレビで見ている。そして一言、彼は以前私の無二の親友だった、とでも言ってすぐに引っ込み、後は淳の手紙の一人称で徹頭徹尾事件を語らせる、そして淳は自身の口で、人生観をもっと重く披露する、これなら「レフト・アローン」になるでしょう。
銃刀法違反ですが、起訴されてしまい、裁判を待っている状態なら、むろん国外には出られません。実刑をもらっても、当然刑期が終了するまでは出られませんし、裁判中でも当然駄目です。執行猶予でもむずかしいですね。入国を拒否する国もあり得ます。
しかし当該事件のケースでは、被害者が逮捕されているわけだし、辻森はまず実刑を食らうだろうし、彼に傷を負わせてもいませんから、検察は情状を酌量して、淳を不起訴にするのではないでしょうか。だからこのままでいいと思います。アメリカにも行けるでしょう。
句読点の打ち方はいいと思います。船引さんは、この点は上手な人に入るでしょう。
後一回で完成でしょう。これは充分に発表に値する作品です。原書房の攻略本は、南雲堂の場合と違って高橋部長に任せていますが、万一掲載から外れるなどということがあれば、私が責任を持って、南雲堂あたりで世に出すことを考えます。
完成形を待っています。これでいいと確認できたら、原書房に出しておきましょう。
「GREEN ROOM」のBBSは、最近よく覗きます。警戒心や気構えなく覗ける、あれは唯一のHPですね。
あの掲示板は素晴らしいです。BBS全体で、すでに一編の作品のようです。あのような心素直な人たちの集いは奇跡のようで、すべてのHP掲示板の、あれはお手本だと思います。明るくて、洒落ていて、知的で、訪れた同好の士すべてを元気づけてくれます。これこそがネットの使命だし、今までになかった新しい力です。
暗く威張らなくても格好いいのだという気づきこそが、日本人の未来を示します。
「GREEN ROOM」には、新日本人のヒントがありますね。1年分を、まとめて出版したいくらいです。あの場所があのような空気に育ったのは、船引さんの投稿の功績もあると思いますから、大変感謝しています。ありがとうございました。
私自身、あの掲示板は本当に励みになっています。いつか、何らかの形でお礼ができたら嬉しいのですが。
杉永さん経由で、四、五人の人とは会話しました。船引さんもまじえ、そう遠くないうちに、みなさんとお会いできればいいですね。
そうそう、石井佐和さんとはもう会うことはありませんね。彼女が里美ちゃんのイメージの一部と言うことは、ないと思います。むしろ南雲堂の「パロディ・サイト事件」の担当編集者だった大井理江子さん、この前掲示板に来ていた極楽桜丸ちゃんなんかの方が近いでしょう。
しかし里美に関しては、これはモデルはないですね。しいて言うと、読者の方たちからの手紙でしょうね、あのもの言いは。
ま、いずれにしても、登場人物の女性に関しては、私は何もしていませんね。勝手にやってきて、私の頭の中で大騒ぎするのです。これは本当に不思議なことです。
ではま、今回はそんなところで。
島田荘司。
PS、この手紙をグリーンルーム掲示板に貼りつけたいということでしたら、まあ特に反対はしません。船引さんにお任せします。
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