船引良祐さんへ


 「六甲アイランド・シティのピエロ」ができあがるまでのやり取りを公開してみます。作家志望者は参考にしてください。

2000年5月15日のMail。

船引さん、
 ご無沙汰しています。日本に行っていました。先日こちらに戻ってきたところです。それでご返事遅くなりました。

 パスティーシュ原稿お送りいただき、ありがとうございました。興味深く拝読させていただきました。美容師としての専門領域の知識が横溢して、勉強になりました。しかし、あまりに多くの要素が詰め込まれていますね。また身辺雑記的な要素も入っていて、劇的な進行ということは、あまり意識されていないです。これは長編を書く際の意識で、ゆえにあまりリズミックではないですね。短編にはテンポが必要です。また現状では、実際に小説が長いです。

 そこで、以下のように順番と構成を入れ換えて欲しいのです。そして細部を磨けば、非常によくなると思います。是非このように手を入れた文章を、もう一度送ってください。充分に発表可能なよい作品になると思います。

 この小説は現在、大雑把に言って以下のような構成になっています。
 御手洗・石岡のヘアカット騒動。
 船引による淳、および博子の説明。
 御手洗の交通問題演説。
 博子の失踪。
 石岡・御手洗への調査依頼。
 御手洗との会話。
 犯人、辻森の行動。
 六甲アイランド・シティでの、ピエロの無料のパントマイム。
 淳、辻森の同僚に尋問。
 淳、辻森を襲う。
 解決。
 死刑問題。
 これを以下のように入れ換えます。

 石岡・御手洗のヘアカットは、もうひとつふたつ面白いエピソードを加え、これだけで短編とすべきです。あるいは長編の一部として使用すべきすべきで、短編にし仕立てたい今回は、すべてカットします。とっておいて別の機会に使用するのがよいでしょう。
 1、いきなりピエロのパントマイム風景。不思議がる公園の客たち。
 2、船引、石岡に事件調査依頼。この時に博子失踪の事情説明する。
 3、化粧を落とした淳、辻森の同僚へ、いきなり尋問する。
 4、船引、親友淳との思い出話を語る。博子との関係も。
 5、犯人、辻森の行動。
 6、淳、いきなり辻森を襲う。何故彼と気づいたかをここで説明。
 7、解決。
 死刑問題もカット、これも別の機会に語るのがよいでしょう。これについては私自身にも意見がありますが、必要なら別の機会に語りましょう。
 淳、ヴィデオで客を撮影する必要はないでしょう。ただ淳が、踊りながらじっと観察していればよいと思います。

 2と3の間に御手洗と船引との会話が入りますが、これはなくてもいいです。石岡君との会話だけで、船引半信半疑。しかし、解決時点でいきなり御手洗さん登場、というのが活稿いいです。

 石岡・御手洗と、船引との行きがかりは、今回は1、2行で説明しておけばそれでいいです。

 細かいところの処理が大変だと思いますが、この順番で無理にでも押し込めてみてください。むろん細部は応変に変更していいです。各部分、おのおの圧縮気味にして、全体で百枚を越えないようにしてみてください。そうしたら、必ずいい作品になりますよ。

 そして次に送っていただく時は、もっと合理的な字詰めで、400字詰め、ましてカラーの罫線指定にはしないでくださいね。前は印刷に8時間もかかってしまいました。今は、どの出版社でも、原稿用紙に書くことは好まれません。

 質問あったらむろんしてもらってもいいですが、第二稿が出来上がってからの方が、有意義な話になると思います。まず、無理にでもやってみることです。では頑張ってください。次のメイルを待っています。

島田荘司。


2000年6月5日のMail。

船引さん、
 仕事追われており、遅くなりました。すいません。大変によくなりましたね。後一息で、充分に傑作の領域でしょう。

 いろいろと気づいたことを言います。まず、このままではリズムがうまく感じられませんので、作者側の意図が一段落する場所で区切ってあげ、読者に読みやすくしてあげる必要があるでしよう。

 区切る形式としては、まず章で大きく区切る、数字を振って小さく区切る、ただ1行空けて、段落で区切る、そんな順番で考えるのがよいです。これは短編ですから、章で区切る必要はないでしょう。
 
 最初から具体的に言います。
 1ページの冒頭からを1とします。
 2ページ下段、24行目以降を2とします。
 5ページ下段、8行目以降を3とします。
 6ページ、「リョウへから淳」までの手紙、前後を一行ずつ空けた方が読みやすいです。
 7ページ下段、15行と16行の間を1行空けます。
 9ページ下段、24行目以降を4とします。
 10ページ上段、1行と2行の間、詰めた方がいいです。
 同じページ上段、8行と9行の間、1行空けた方がいいです。
 13ページ冒頭からを5とします。
 14ページ下段、2行と3行の間、詰める。
 15ページ下段、後ろから4行目と5行目の間、1行空ける。
 18ページ上段冒頭、1行空ける。
 同じページ上段、最後の1行から、19ページ上段、最後から4行目までは、取った方がよい。これは、もうひとつの短編、「美容院風景」の後半に入れましょう。しかし「キタライ手と」いう駄洒落はやめた方がいいです。感覚があまり洒落ていないので。

 これでかなり読みやすくなったでしょう。
 次にタイトル、これはこの内容と構成なら、今のタイトルは、気持ちはよく解るが違うでしょう。「六甲アイランドシティのピエロ」ですね。

 もちろん、「LEFT ALONE」を生かす方法はありますが、修正がややこしくなりますから、今回はやめておきましょう。

 2ページ上段、4行目。「講演に向かっていた。なにやら−−−」と続く方がいいです。
 リョウの語り部分、「である調」と、「ですます調」が混在しています。統一した方が読みやすいでしょう。「である調」に統一する方がうんと楽です。

 リョウは、神戸にいるのではないのでしょうか? とすれば横浜馬車道までは遠いはずですね。そのあたり、もっと書き込んだ方がいいです。リョウに新幹線利用させるとかね、横浜のホテルに泊まらせるとかですね。

 10ページ下段、21行目以降の場面、これは現行のままでもいいですが、淳が二人に自身を明かさず、別の態度でもうひと趣向があると、さらに格好よいですね。こんなに素直に自身を明かすのは、淳としては怖いでしょう。3人が話しを通じている可能性だってないことはないので。

 13ページ上段、「段々」はひらがな(ヒラクと称しますが)の方がよいでしょう。

 こうして贅肉をそいで見ると、文章で読ませる小説ではなく、アイデアを披露する小説であるべきなので、もっと思い切ったアイデアが背骨にあると、さらに嬉しいなという気になります。しかし、現行のままでもずいぶんよくなったと思います。感心してくれる人も多くいるのではと予想します。

 直して、また送ってもらえませんか。質問あったらしてください。

 美容院風景の小説も、完成したら読ませてください。待っています。では。

島田荘司。


2000年6月12日のMail。

船引さん、
 メイルと作品受け取りました。これは素晴らしくよくなりましたね。この水準のものが、これから先コンスタントにできていくなら、船引さんはプロとしても充分にやっていけるでしょう。

 気づいたこと、以下で重要度の順に述べます。

1、 ピエロのペンダントのアイデア、よいです。しかしこれが出てくるなら、もう一歩先に行きたいものです。こういうのはどうでしょう。

 車に当てられた瀕死の博子、口からゴボゴボと血を噴き出していた。それが口の周囲に真赤について、一瞬ピエロの顔に見えた。辻森、悲鳴をあげ、顔をそむける。急いで車のトランクに放り込んでしまう。とても病院に運ぶ気になれなかった。

 小学校三年生の時に観たサーカスのピエロ、「いいかげんにしろよ馬鹿」と辻森に言った。ピエロの顔の博子もまた「馬鹿」と言った。

 公園でパントマイムを演じている淳のピエロ、口の周り、ドーナツ状に赤く塗っている。


2、米井さんがもし横浜の人なら関西弁というのは違和感ありますね。このままにしたいなら、「横浜に住んで長いのに、この人はいまだに関西弁が抜けない」と一言書いておけばいいし、少ない会話ですから、関東弁に直してもいいでしょう。

 エピローグでのケーキのやりとりは、これ自体は悪くないのです。事件そのものがもっと異常な性質のものであったり、解決した時にホーッというような心地よい疲労感が長く続いているようなら、あれが入っていても充分持ちますね。

 淳が、自身の素性を明かさずに連れの二人に辻森について尋ねるくだりは、非常にうまく行きましたね。これはよいできです。

 横浜の地理に関しては、私はこれで違和感は感じませんでした。

 「レフト・アローン」を生かす方法について述べると、このタイトルは、話せない主人公「淳」について言っているわけですから、彼の比重をもっと圧倒的に増せばいいわけです。たとえばリョウは、冒頭ごくわずかに登場して、ラスヴェガスでパフォーミングしている淳をテレビで見ている。そして一言、彼は以前私の無二の親友だった、とでも言ってすぐに引っ込み、後は淳の手紙の一人称で徹頭徹尾事件を語らせる、そして淳は自身の口で、人生観をもっと重く披露する、これなら「レフト・アローン」になるでしょう。

 銃刀法違反ですが、起訴されてしまい、裁判を待っている状態なら、むろん国外には出られません。実刑をもらっても、当然刑期が終了するまでは出られませんし、裁判中でも当然駄目です。執行猶予でもむずかしいですね。入国を拒否する国もあり得ます。

 しかし当該事件のケースでは、被害者が逮捕されているわけだし、辻森はまず実刑を食らうだろうし、彼に傷を負わせてもいませんから、検察は情状を酌量して、淳を不起訴にするのではないでしょうか。だからこのままでいいと思います。アメリカにも行けるでしょう。

 句読点の打ち方はいいと思います。船引さんは、この点は上手な人に入るでしょう。

 後一回で完成でしょう。これは充分に発表に値する作品です。原書房の攻略本は、南雲堂の場合と違って高橋部長に任せていますが、万一掲載から外れるなどということがあれば、私が責任を持って、南雲堂あたりで世に出すことを考えます。

 完成形を待っています。これでいいと確認できたら、原書房に出しておきましょう。


 「GREEN ROOM」のBBSは、最近よく覗きます。警戒心や気構えなく覗ける、あれは唯一のHPですね。

 あの掲示板は素晴らしいです。BBS全体で、すでに一編の作品のようです。あのような心素直な人たちの集いは奇跡のようで、すべてのHP掲示板の、あれはお手本だと思います。明るくて、洒落ていて、知的で、訪れた同好の士すべてを元気づけてくれます。これこそがネットの使命だし、今までになかった新しい力です。

 暗く威張らなくても格好いいのだという気づきこそが、日本人の未来を示します。
「GREEN ROOM」には、新日本人のヒントがありますね。1年分を、まとめて出版したいくらいです。あの場所があのような空気に育ったのは、船引さんの投稿の功績もあると思いますから、大変感謝しています。ありがとうございました。

 私自身、あの掲示板は本当に励みになっています。いつか、何らかの形でお礼ができたら嬉しいのですが。

 杉永さん経由で、四、五人の人とは会話しました。船引さんもまじえ、そう遠くないうちに、みなさんとお会いできればいいですね。

 そうそう、石井佐和さんとはもう会うことはありませんね。彼女が里美ちゃんのイメージの一部と言うことは、ないと思います。むしろ南雲堂の「パロディ・サイト事件」の担当編集者だった大井理江子さん、この前掲示板に来ていた極楽桜丸ちゃんなんかの方が近いでしょう。

 しかし里美に関しては、これはモデルはないですね。しいて言うと、読者の方たちからの手紙でしょうね、あのもの言いは。

 ま、いずれにしても、登場人物の女性に関しては、私は何もしていませんね。勝手にやってきて、私の頭の中で大騒ぎするのです。これは本当に不思議なことです。
 ではま、今回はそんなところで。

島田荘司。

 PS、この手紙をグリーンルーム掲示板に貼りつけたいということでしたら、まあ特に反対はしません。船引さんにお任せします。

 


2000年6月20日のMail。


船引さん、
 大変よくなりましたね。これでもう原書房に提出していいとは思いますが、やはり辻森が事故の被害者を抱き起こし、衝撃を受けるシーンの今一歩の押しが気にはなりますね。この後彼は発狂し、彼女を病院に連れていかず、生き埋めにしてしまうわけですから、恐怖による大変な自己喪失が起こるわけですね。これは、ピエロの幼児記憶により引き起こされるということははっきりしている。しかし現在は、ピエロのペンダントによってこれが引き出されるという設定になっていますね。

 小さなピエロの人形が下がったペンダントが、犠牲者の胸元からこぼれたとしたら、辻森は激しいショックは受けるでしょうが、悲鳴をあげてこれを引きちぎり、遠くに放り投げる、といったことが起こりそうに思われます。やはり、簡単には消し去れないピエロの現出であるから、彼はパニックに陥ったということではないかと思います。

 彼女がピエロの顔になった方が、あなたのやりたいことが理想的に現れるとしたら、それに気づいた理由などは些細な問題で、作品の完成にこそ殉じるのがアーティストの使命というものです。傑作が出来上がりかかっているのに、これを邪魔する権利は誰にもありません。作品というものの生命は、これを書いた人の所有ではないのです。将来これを読む読者たちのものです。

 しかし、今のままでも充分によいものですから、絶対にそうしなくてはならないとまでは思いません。私の言うようにしたら、またひとつ問題が出る事は出ます。

 ですので、これはどちらでもお任せします。このままで行くなら、高橋さんにはメイル入れておきますから、この作品、原書房にメイルで入れておいてください。もしもう一回加筆した場合は、こちらに今一度入れてください。次回作も、オリジナル作品も、期待しています。
 では。

島田荘司。


2000年6月25日のMail。


船引さん、
 これは大変な傑作になりましたね。さっそく原書房に入れておいてくだい。私の方でも、この後すぐにメイルしておきます。

 質問に関して、その通りです。公園のパントマイムを、辻森が拒絶してしまうということですね。しかしうまくフォローができたと思います。

 別の質問、車名とか、作品名、これはあまねくどのような創作においても、「実名を入れるほうがよい、入れないほうがよい」というふうに単純には言いきれません。その作品のモーションによります。その計算も、作家の能力のうちですね。あるアーティストのある作品を入れることで、ある効果が計算できるという時は、入れるのがよいでしょう。

 しかし歌詞を引用するなどという時は、著作権協会への支払いの要が生じますから、これは慎重になり、どうしてもという時以外にはやめた方がいいですね。そして入れた場合には、出版社への申し出を忘れてはまずいです。しかしそれほどの金額ではないようですけれどね。
 ではまた。

島田荘司。

「名もなき騎士のために」ができあがるまでのやり取りを公開してみます。

 

2000年12月1日のMail。

船引さん、
 ようやく少し時間ができてたんで、これ書いています。作品は少し前に読んでいたんですが、しばらく考えていました。なかなか面白く読んだのですが、あなたはとてもこちらを困らせる人ですね。今回の作品も、これだと「レフトアローン」の時とまったく同じ構造を持ってしまっています。

 以前「六甲アイランドシティのピエロ」を作った時、本格探偵小説的な部分を切り離してこちらを本気の小説とし、残りは軽いタッチの読み物として、「奇想の源流」のパロディ・サイトにでも置いておくと、そういう考えでいました。

 ところが今回、軽いタッチのものに、またしても本格的な気配の小説のアイデアがくっついてきてしまっています。同じ要求をまたしたくないから、少々悩んだんですね。このままでもなかなか面白いから、これを今度は南雲堂に送っておいてください、と言ってすませてもいいんですが、やはりそれでは筋が違うように思いますね。もっと面白くできるのがあきらかなのだから、きちんとそういう提案をすべきだと思いました。この小説の後半に現れたアイデアは、うまく磨けば傑作ともなり得るものです。

 あなたも以下のような点を、ちょっとおかしいと思うでしょう。この小説は、全体で27枚と少しあります。しかし、御手洗さんが本気で取り組む気になったトリック爆破事件の説明が始まるのは、なんと21枚目からです。27枚中の最後の7、8枚で語るには、この事件は本気ふうに見えすぎます。きちんとトリックもありますしね。

 そうなると、これは「六甲アイランドシティのピエロ」の時と同様に、このトリック爆破事件を中心に据えて、本格短編一本をものにすべきです。前半の御手洗さんたちのお喋りとか、御手洗さんの薀蓄披露の部分は、これだけで軽いノリの一本とすべきです。ただしこれにあなた得意のお笑い要素をもっともっと入れるのがよいでしょうね。そうすれば、お喋りだけで充分にもちますよ。

 そして、本格の事件の方はもっともっと磨きましょう。もちろん前半をばっさばっさと切り落とす気になるならこの行き方でもいいですが、たぶんあなたはそれはできないだろうと思います。アメリカに言ったパントマイムの青年についても書きたいでしょうからね。

 後半の小説のみで一本作るのなら、もっとヒントを提出しておくべきです。一番考えられるのは、スプレーの上に置いた机、これだけではたぶん重量が足りないでしょう。何十本ものスプレーのノズルを同時に押さなくちゃならない。そうすると、机の上に何らかの巨大な重しを載せた可能性がある。すると、現場にいささか特徴的な要素が現れてくる可能性がありますね。

 それからスプレーの導火線はいいアイデアですが、内部でベルが鳴る旧式の黒電話は、ベルを叩く時に小さな火花が散っていて、この電話機を現場に置いておけば、電話をかけるだけで爆破の点火ができるはずです。たとえばこの男はそう考える。

 そうすると、このいい男の挙動が不審ななるかもしれませんね。女性の前で、誰それにかけるといつわって、何度も電話する。しかし爆発音が聞こえる場所にいるものだから、うまく点火しないと解る。それでやむなく苦肉の策としてスプレー導火線を作りに行くと。

 まだいろいろと考えられるでしょう。そして現場では、何故か旧式の電話機が発見される。つまり電話機が変わっているというヒントが現れる。この電話機から、御手洗さんが推理を働かせる。

 それから、物語の冒頭で、石岡君の目の前に、いい男の犯人の姿をちらと出しておくとかね。女の子が騒いで、それで事件の話に入っていくとか。いろいろとやれると思うんですね。

 事件の見え方に奇妙な要素があった方がいいということ、それから推理のとっかかりになるような、なんらかの伏線をいくつか読者に示した方がいいということ。これを使うのは、御手洗さんによる、結部の謎解きの時だけでもいいですけれども。

 結論として、また二つに割るしかないと思います。二つの小説にして、また送ってください。結部の事件をあんな風に扱うのはもったいないです。そして、前半の美容室での会話を、SSKの人たちなら読んでくれるでしょうが、一般の人たちで、「六甲アイランドシティ」を知らなければ、不必要に長いと感じるでしょう。もう少し頑張ってみてください。南雲堂が「パロサイ2」をやりたいと思っています。うまくすればこれは柱の小説にもなり得るでしょう。チャンスですよ。
 何か質問あればください。では。

島田荘司。


2000年2月18日のMail。


船引さん、
 杉永さんから伝えていただきましたが、サーヴァーがずっとダウンしていまして、失礼しました。昨日やっと作品受け取りました。プリントアウトしてさっき拝読したところです。非常に重厚な、凝った作品になりましたね。立派なものです。もちろん収録させていただきます。御疲れ様でした。タイトルも格好いいですね。少々長めですが、現時点の判断としては、削らなくてもいいと思います。

 しかしこれだけ中身がこみ入ってくると、たくさん図版が必要になりますね。スタイリングムースの導火線ひとつをとっても、どこからどこまでこれを引いたのか、言葉では見当ついても、はじめてこれを読む読者の心理としては、図で納得したいはずです。書き手は頭に映像が見えていますから、そんなものは別にいらないだろうと考えがちですが、読者はたいてい違う絵を見ていて、実は欲しいものです。これを用意してもらえますか? 忙しそうですから、すぐでなくともよいですし、手書きの図でもよいです。この小説は、私の方から南雲堂に送っておきます。

 G−Rへの好意的な長い書き込みを、ありがとうございました。Pattyさんの珍しく長い親記事も、中傷記事を下に押しやるため、場所稼ぎの舞いを舞うようで感動しました。葵さんにも、彼女のこの思いが解ったのでしょう。加勢してくれていましたね。

 SSKが大きくなると、だんだんにあの手の闖入者も増えてくると思います。WS刊や「奇想の源流」でなく、G−Rに来るところを見ると、事情をおおよそ知っているのでしょう。しかし、みなさんの知的で誠意的な対応には、大いに勇気づけられました。こんなすごい読者たちを持った作家が、かつていたでしょうかね。あなたを含め、G−Rのメンバー一人一人を誇りにしたいと思います。

 彼氏は、作品名をあげない定番のトリックを用いていますが、要するに「パロサイ」のことを言っているのだと思います。それから「攻略本」でしょう。これらをつなげて、最初に結論ありの定型のストーリーに合わせようとしているわけです。死刑問題、司法問題、脳の問題の作品となると、「秋好事件」、「三浦和義事件」、「涙流れるままに」、「眩暈」ということになりますが、これらは発表当時はあざ笑えても、時間が経った今、駄作と言って大方の了解を取るのはもうむずかしいでしよう。島田はこれらの作品しか認めないという専門家たちもまた多いのです。今あの嘲笑をやる人は、すべて同じ材料を使っています。その意味でも、今度の「パロサイ2」は優れた作品にしたいものです。これは参加者の力量にかかっています。

 「探偵と作家と美容室」、是非G−Rで連載してください。ここではひとつ、思い切ったユーモア、ギャグの開放を期待したいと思います。常連の目を意識すると、また全然違ったものになると思うのです。これが非常に決まれば、両方の収録も考えるかもしれません。そうなったら上・中・下にして、中は大半船引作品集にしてもいいですね。まあSSKなら苦情も出ないでしょう。あなたは有名人だから。いずれにしても、早めにスタートをお願いします。

 妙さんも、パスティーシュ作品くれました。非常によい出来でした。興味あれば、そして妙さんとあなたが親しいならば、言ってください。お送りしてもよいのでは思います。これも大勢に読んでいただきたい、好ましいサンプルとなり得る作品ですので。
 007氏も小説くれました。今加筆修正してくれています。彼のもなかなかよかったですよ。

 onlineに連載している優木さんの「頑張れ石岡君」はどう思いますか? あなたもあんなの書けるでしようね。では今後も、ますますの研鑚をお願いします。

島田荘司。



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