hitoshiさん宛て

2001年12月5日、義弟の斉さん宛て
 福山市で彼が主宰した、「ピース・フェスティヴァル」に寄せた一文

斉さん、

 下のようなものを書きました。文字数が多いでしょうか。ちょっと分量が解りません。私としては最低このくらいは述べたいのですけれども。
 200文字程度抜粋という場合は、一番下のカギカッコ内の部分を使っていただければと思います。
 多すぎたら言って下さい。削ります。
 よろしくお願いします。
                      島田荘司。


 自殺者の王国
                      島田荘司。

 日本の自殺者の数が不況でウナギ昇りとなり、交通戦争といわれる事故死者のすでに3倍、年間3万人に達しています。東京は、誰かの飛び込みによって中央線が停まらない日はないありさまで、どこかの国と交戦中にも似た状況です。今や交通事故遺児よりも、自殺遺児の数の方が増えてしまい、遺児援助金もパンク状態です。
 このあきらかな異常事態に対して、日本国内が静かなことにも驚かされます。日本という温和な国は、同時にこういうサディスティックな側面を持つ国でもありました。そういう人情の病が、今また露呈しています。
 今日の自殺者の多さの理由には、むろん不況がありますが、日本型の人情にも原因があります。善良で働き者の日本人は、近所にリストラされたサラリーマンがいれば、明るく放置することができません。善良な道徳陰口によるプレッシャーかけ、という常識に傾きがちで、妻もまた、誰にも後ろ指さされない道徳意識から、失業中の夫に糾弾を加えがちです。これらの正しさは、今や殺人行為となりました。かつての交通戦争の時代、スピード狂の若者は許せないとあんなに騒いだのに、今この人情の問題点にまったく騒がないのは、3万人殺しの犯人が、自分たちである可能性を恐れるからでしょう。
 『もう北風の時代は去りました。他者を、また互いを厳しく責め合い、殴打し合って生産効率をあげた20世紀は過去となりました。お互いが太陽となり、この国の人間関係を今の百倍も暖かくし、互いの日本型鬱病を癒し合い、失業者に自死ではなく、生きる道を模索する意欲を与えてあげたいものです。ライト・フェスタの趣旨に賛同します。』

島田荘司。




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