小島正樹さんと

雪に吊られた男、小島正樹さん宛て

2001年1月31日

小島さん、
 「パロディ・サイト事件2」への投稿作品、ありがとうございました。大変面白く読みました。雪と、本格的機械トリックに、青池研吉氏の往年の「飛行する死人」など思い出し、懐かしかったです。充分に立派な作品なので、これも収録を決定させていただきたいと思います。
 ついては、いくつか不満点、疑問点などありますので、以下で述べておきます。よろしければ加筆修正していただき、私の方にeメイルしていただけたらと思っています。
 まず、読み落としているかもしれませんが、「カクイドリ、北へ」というタイトルの意味、特に「カクイドリ」というものについては、述べられていましたっけ? ここをもう少し明確にして、ラストの着地に使用するなどしてはどうでしょうか。まあ必ずラストに、とはこだわりませんが。
 このタイトル、短編全体を支えるような意味があればですが、もしそうでないなら、それほど鋭い、魅力的なタイトルに思えません。雪とか氷とか、密室などの、探偵小説的記号の方向で、もっと具体的なものは思いつけませんか?
 あるいは、「点眼薬」をうまく使うとか。この薬は、雪明りの中、それほど必要には思えません。わざわざこういうものを出してきたのは、タイトルにでも引っ掛けるつもりかと思っていました。
 除雪車のシューターに、ちょうど引っ掛けさせるかたちでのコープの垂らし方が、充分には説明されていないように思います。うまく引っ掛けさせるよう、厳密に計算して垂らす必要がありますね。ここは計画の核心ですから、もっと具体的に説明した方がよいようにと思います。シューターの位置、形状なども。
 雪梯というものの説明をもう少し聞きたいです。雪国以外の人間は、見たことも聞いたこともないでしょうから。
 10ページ、「梯子を元通りにする」という表現、「元」とはどこなのでしょうか。家の外? それとも室内か? 特定してください。
 10ページの「ぶら下げる」は、「垂らす」とした方が解りやすいですね。
 除雪車がロープを引っ張って道を走っている時、「よく車が道にいなかったものだね」といったようなセリフ、一箇所くらい入れておいた方がいいでしょう。
 9ページの御手洗の言動、ちょっとやりすぎていて、冷たいと思います。もう少し優しくてもいいと思いますよ。
 これらの点を網羅して、もう一度加筆してもらえませんか?

 長編もお送りいただいていますが、どうにも忙しく、なかなか読めません。梗概とか、こういうあたりを読んで欲しいのだ、といった惹句を、次のメイルに書いておいてもらえませんか。
 では、次のメイル、お待ちしています。では。

島田荘司。


2001年2月23日

小島さん、
 こちらのサーヴァ、長々とダウンしていたり、仕事に追われていたりで、メイル書けませんでした。原稿は拝読し、もう南雲堂の方には私からお送りしておきました。もちろん収録させていただきます。原稿は大変よくなっていました。もう後はゲラで、細部の手入れをすればそれでよいと思います。
 こちらからの注文があとひとつ、ないしふたつあります。それは、除雪車のシューターに引っ掛けるべく垂らしているロープの図面ですね。何本の木(1本か2本か)を、どのように用いて、どのような形状で、道路のどの位置に垂らしたのか、これを具体的に図で示した方がよいと思います。それでもう終了です。読者を充分に説得できるでしょう。もう1枚、この図をください。
 あとはタイトル、「カクイドリ」がちょっと唐突ですね。読後にくる印象は、カクイドリよりむしろツチノコの方でしょう。「北のツチノコ」ですね。巨大なコオモリが飛んでいくように見える、何かの出来事が事件中に起こっていればよかったのですが。タイトルはもうひとひねりするか、あるいは1歩戻るか、こういう発想が欲しいところですね。

  お送りいただいた長編のことですが、まだ全部は読めていません。力作であることは伝わります。しかし結論から言って、これを私が本にするのは限りなく不可能なことです。これは、小説のよしあしに関係ないのです。この種のものは、たった今私がらみで本にするには、もっとも遠い部類の企画です。
 小島さんが読者だと思って考えてみて欲しいのですが、このような歴史ものは、その方面の薀蓄に定評を持つ有名作家か、中国史専門家、新人ならば賞を取っているか、そういう条件がないと、通常読者の手にも取られないものです。もちろん小島さん自身は無名の人の歴史小説でも手に取るでしょうが、それは自分も書こうとしているからであって、そのような人に向けて出る部数は、これはせいぜい千部です。それが威張ったわが大衆というものの姿なんですね。
 ミステリーなら、ド素人でもトリックのひとつくらいは見るべきものがあるかもしれないからよ、買ってやっもいいかもなと、みんなそう発想するわけですね。ですから現在の日本の出版物は、7割ミステリー関連と言われます。ミステリー以外の本は、新人なら賞を取る以外には本にならない、と言ってもいいくらいです。読者が買ってくれないからですね。推薦者とか編集者がいくら頑張っても、これは駄目なんです。
 今この作品を本にする方法は、1に賞を取ること。2に小島さん自身が大きく名前を売ってしまうことです。内容がいいから本が売れるというのは、かなり先の段階で起こることです。歴史小説家でも、著名人以外は探偵小説を書いて本にしようと思っている現状ですから、この逆は到底無理なんです。
 この小説で世に出たいなら、これでもって賞に応募してみるのがいいと思います。受賞すれば、大きな出版社なら本にするでしょう。
 しかし、小島さんが前代未聞の圧倒的なしかけを持った本格探偵小説を書いたなら、私がどこにでも紹介できます。メジャー所が駄目なら、SSKノベルスで本にする手もあります。
 しかしこれも、中身がとんでもなく変わっていれば、という条件です。今回の企画も、御手洗という名前で最低一万は売れるだろうと見込みが立つから、企画が成立しているんです。御手洗という名前ナシ、編者島田の名前もナシで、ただ新人のオリジナル短編集とやったら、まずどこの出版社も本にはしません。いかに内容が優れていても、そういうことには関係ないのです。本が多すぎ、書店の読者が手に取らないからですね。残念ながら、これがわが現実なんです。
 こういう状況の中でもなんとか本を出し、後は着実に傑作を積み上げ、定評を作っていくと、それ以外に道はないのですね。頑張ってください。

島田荘司。

 

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