2002年1月7日、MSさん宛て
MSさん、
遅くなりましたが、明けまして、おめでとうございます。メイルいただきました。ありがとうございます。創作に励んでいらっしゃるのでしょうか。よい作品ができることを願っています。
ご質問の件、本格寄りの作品以外も読んでもらえるかということですが、これは歌野さんが言うように、読むことはむろんかまいませんし、それがよい作品ならば、是非読みたいとも思います。ただ本格寄りでないと、私が勧めても、次段階の編集者が読んでくれないように思います。
編集者の考えとしては、私に勧められて読んでのち、たとえいいと思ったにしても、本格ミステリーとは無関係の作風なら「島田荘司推薦」とはできないな、と考えるでしょう。これはすなわち、読者がそう考えるな、ということです。ということは、売りにくいということです。読者に買わせる条件が整わないわけです。
私が編集者に勧められるとしたら、それは彼にとって、「島田推薦の新人」とうたえる本格作品だからということで、これで社の編集会議を通すメドが立つわけですね。そうできないのであるなら、商売としての意味成立が乏しい(と上が判断する)から後廻しになるだろう、という彼の判断発生は、予想されるところです。
これは文壇の一般的性質で、そのまま読者の性質でもあります。ミステリーの、それも本格作以外は、受賞なり、なんらかの保証がないと読者が買いたがらないから、出版社も出せないということですね。一般読者は、恋愛小説なら、またファンタジーでさえも、新人なら賞を取っていないと買わないということで、そうなら編集者も、この方向の投稿作品は賞に入れようという話にするでしょう。本格寄りのミステリーに限っては、島田推薦という程度の保証でも読者は買ってくれる、だから私の勧めにも編集者は耳を貸す、今のところそういう構造になっているわけですね。
だから結論としては、本格寄り以外の小説なら、私のルートで本になる確率は、うんと低くなるということです。むろん性描写のある小説とでも言うならまた話は別ですが、私のところから本になることを期待するなら、本格寄りのミステリーでないと、まず現実的ではないです。むろん、ただ読んでくれればいいということならいいのですけれど。
本格以外の小説では、私にもできることは少ないです。でも確率はゼロではありませんが。素晴らしい作品なら、むろん編集者に見せます。
まあそんなようなことですね。本格以外の小説で、自信作があるのですか? またはそのようなものが構想されているのでしょうか。よろしければ、そういったことを教えてください。
島田荘司。 |