2003年2月21日のMail。
島田先生
レスが遅れて申し訳ありません。
> 非常に興味深いですね。ラスク氏に宛てたものも、確かに勢いのある筆致で、画家が書いた字、ちょっと絵画的な字体、という感じはします。オープンショー博士宛てのものと、筆跡はかなり似ているのでしょうか。
10・16のラスク氏あての手紙と、10・29のオープンショー博士あての手紙の筆跡は、写真でみる限りかなり似ていますが、同一のものとまではいえません(調べた限りは、この両者の筆跡を比較した資料は見つかっていません)。
> しかしどうもまだ、ちょっと釈然としませんね。まず、小包の方は切手を舐めず、オープンショー博士宛ての手紙の切手は、自分で舐めたのでしょうか。舐めるのなら、両方舐めるような気がしますが。当時、DNAはまだ発見されていませんが、唾液から血液型は検出されなかったのでしょうか。それはないと思うのですがねー。
少し気の利いた犯人なら、切手を舐めるのは、血液型を知らせかねないので危険だと思うような気がするのですが。まして医学者に送る手紙なのですからねー。
コーンウェルの著作では、55件のジャックの手紙のサンプルを検査したとありますが、この問題の10・16の手紙を扱ったかどうか、記述はありません。またサンプルの血液型についての、記載もないようです。このあたりは、コーンウェルは都合の悪い結果は、記載しなかった可能性があると思います。
> それからこのオープンショー博士宛てのものには、「秘密の暴露」がないように思うのですが。犯人だけが知る事実。まあ「左側」というのがそれにあたるかもしれませんが。犯人なら、いくらでも個人的なことが書けるように思うのですがね。切り口の形状だの、どうナイフを操ったかだの、現場に誰それが1番に来ただの、あとオレは子宮もまだ持っているぜとか、発表されていないような情報ですね、これがこれらを含んでいればいいのですが。どうもこのくらいの簡単な短い手紙なら、誰でもすぐに書けるように思うのですがね。むろんあまり踏み込んだこと言うと、危ないということはあるでしょうが。どうも手紙なるものの大半は、眉唾のように思えるのです。
仁賀さんは、切り裂きジャックについて詳細に論じた「ロンドンの恐怖」の中で、この10・29の手紙をいたずらではないか、と書いています。
しかし、JACK THE RIPPER -AN ENCYCLOPAEDAI (John J Eddleston)によれば、この2通の手紙は、筆跡が類似している点、本来は語彙力があるのに、わざとスペルを間違っている点が共通していることから、同一の筆者ではないかと推測しています。
> それからこのオープンショー博士宛てのジャックの手紙は、これまであまり知られていませんよね。これは何故なのでしょうね。
いろいろ資料をみてみますと、ジャックの手紙で有名なのは、この「切り裂きジャックとホワイトチャペルの殺人」の資料となっている3通(「ボスへの手紙」、「小粋なジャック」、「地獄より」)で、10・29の手紙は1ランク重要性が落ちるものとして扱われているようです。しかし、前述のJohn
J Eddlestonの著作には前文が引用されており、それなりに注目はされているようです。
> またこの手紙は10月29日、以前のラスク氏宛てのものは10月16日、13日も経っていますね。充分考える時間はあったでしょうねー。翌日とでもいうなら、かなり信じますが。この間に、ラスク氏宛ての手紙の情報は、世間に公開されてはいないのでしょうか。要はこれにかかってくるように思います。大々的に新聞記事になっていなくても、記者連中は知っていたとか、警官の家族や関係者には漏れていたとか、そういうことがあれば、周辺にいてこの情報を手に入れた者は、悪戯をやりたいという強い誘惑にはなるでしょうね。
10・16の手紙については、時期は不明ですが、比較的速やかに一般に公開されたということです。問題の腎臓に関するオープンショー博士のインタビューが新聞に掲載されたとなっています。したがって、10・29の筆者は、10・16の内容については、すでに知っていたと考えられます。したがってこの手紙は贋作であるという可能性は否定できません。10・16の手紙そのものが、(筆跡もわかるように)公表されたかどうかは不明です。
> さらに、シッカートというのは、割合に有名な人ですね。これにもやや首をかしげます。これまでの説は、多く名のある人、地位ある人から犯人を選びがちです。
「三浦事件」もそうでしたが、どうしても小説的な処理(これまでの登場人物から選ぶ)をしたくなる心理が働きます。
シッカートは有名人だから、たまたまミトコンドリアDNAが残っていたのではないでしょうかね。そうなると、これらのおびただしいジャックの手紙の中に、有名人のDNAと一致するものは今後もまだまだ探せそうですけれどもね。ジャーナリスト、無名、有名の作家、戯作者、コメディアン、ジェローム・K・ジェローム、ビアズレーだのオスカー・ワイルドなどもやりそうですが。まあ時代がどうだったか、今は点検せずに言っていますが、これらの人たちがジャックの手紙を書いていないのは、《やっていないから》ではなく、その手前で、《彼らのDNAが見つからず、まだ照合できていないから》ということでもあるように思います。あれだけの有名事件なんですからね、みんなが参加していても不思議はない。当時の大騒ぎは、今はもう想像もつかないことでしょう。
コーンウェルは、シッカートのほかに、サンプルが手に入った有力な容疑者であったドルイッドの資料などとの比較も行っているとのことでした。シッカートについては、島田先生のおっしゃるように有名人ですし、70年代ごろでしたか、シッカートの庶子と称するウォルター・シッカートが王室陰謀説を唱えたときに、シッカート自身も主犯ではないですが実行犯の一人として名前が出ています。
コーンウェルの本では、はじめからシッカートを犯人として断定しすぎているように思えます。どうも、都合の悪い証拠を伏せてあるような、そんな感じもします(読み物としては、それでいいのかもしれないですが)。
また何かわかりましたが、メールします。
岩波。3−23−03 |