南雲堂刊、『天に還る舟』のできるまで

天に還る舟に関してのやり取りをご紹介します。
>>これを読まれるのは、作品を読まれてからにすることをお勧めします!<<

Vol.002

島田荘司先生。
梅雨も明けたようで暑い日ばかりですが、先生にはご健勝のこととお喜び申し上げます。先日はお忙しい中にも関わらず拙作に目を通して下さいまして、本当にありがとうございました。
 そのときに先生からご教示頂きました点を踏まえまして、私なりの修正案をまとめてみました。

 大きな変更点はふたつあり、ひとつは見立てについてです。秩父の伝説が間違いで、赤壁を詠う漢詩が正解としていましたが、読み返してみますと、漢詩にたいする私の勉強不足ばかりが露呈し、ひどく自己満足的なものに思えました。そこでこの部分を先生にお教えいただきましたように、逆にしようと考えました。そのため犯人である秋島重治を秩父郡長瀞町出身ということにし、長澤平吉と幼なじみという設定にしてみました。そして幼いふたりは、平吉の母から秩父地方に伝わる民話を繰り返し聞かされます。その後中国で家庭を持った重治は、妻である王娟鈴に秩父地方の民話を語ります。

 やがてその家庭に四人の日本兵が乱入、妻は犯され、子は殺されます。終戦後、故郷にも帰らず、家庭を目茶苦茶にした四人の日本兵を探し続けた重治は、その四人が自分と同郷の者であること、さらにそのうちのひとりは幼なじみであったことなどを突きとめ驚愕しますが、やがて妻であった娟鈴がもっとも好んだ秩父地方に伝わる四つの民話に見立てて四人を殺そうと決意します。

 そして、帰郷した重治による復讐が始まり、戦友会のメンバーが次々と殺されて行きます。
 重治の孫である岡部英信は、重治が民話見立てのため、あるいはアリバイトリックを完成させるためにつかった小道具やその状況(宙に浮く舟、散乱するガラスの破片、自動発火装置として使った扇子、木の上から落下したため砂に埋もれた斧など)が、赤壁を詠う漢詩に酷似していたため、重治が赤壁に見立てて殺人を行っていると思い込んでしまいます。

 やがて四人が死体となって見つかり、身代わりとなる事を決意した英信は逮捕され、その自供から、今回の事件は漢詩見立て連続殺人ということに落ち着きます。
 しかしその後、探偵役である海老原浩一によって真相が判明する、という風に変えてみました。
 変更点のもうひとつは、魅力的な探偵役の不在を解消するため、海老原浩一と鈴木たつるの性格を大幅に変えてみた点です。海老原浩一は普段はものぐさですが、一旦事件に興味を持つと一種操状態となり、時に狂人としか思えないような言動をします。そして鈴木たつるはそんな海老原に事件への興味を持たせようと、物語の前半から中盤にかけて聞き込みや取材に動き回る、としてみました。

ただ、探偵役に魅力を持たせようとすればするほど、どうしても御手洗さんに似てしまうように思え、それが気になっています。
 以上の修正点をもとに、全体のあらすじ、海老原浩一と鈴木たつるの性格、あらすじをもとにした細かい構成をまとめてみましたので、添付いたします。乱文でとても心苦しく、特に構成などは思いつくままの箇条書きですので、大変恐縮ではございますが、お許しいただければ幸甚です。
 そして、もしもこの修正が的外れなものでなければ、私なりに書き直しを試み、先生のご指導を仰ぎたいと思います。

 滞在中の大変お忙しいところ長々と書き連ねました事、お詫び申し上げます。先生の今後のご活躍を心からお祈り申し上げております。
 小島正樹拝。