南雲堂刊、『天に還る舟』のできるまで

天に還る舟に関してのやり取りをご紹介します。
>>これを読まれるのは、作品を読まれてからにすることをお勧めします!<<

Vol.009

島田荘司先生。
こちらはさわやかな秋風が心地よく感じられる季節となりました。先生におかれましてはお健やかにお暮らしの事と拝察致します。先ほどはお忙しいところメイルをくださり、ありがとうございました。
 指紋につきましてのご丁寧なご指導、深く感謝致します。ここは先生のお考えどおり、膝が見つかるとしようと思います。また着地につきましてもご心配をくださりありがとうございました。
 ご質問賜りました見立てに付きまして、ご連絡申し上げます。
 早速書き始めようと思います。先生がおっしゃってくださいましたように最初だけは、少しまとまってからお送りいたします。ご配慮、本当にありがとうございました。
「光る鶴」拝読出来ます日を楽しみにしています。
 末筆ながら、ご自愛専一のほど願いあげます。
 小島正樹拝。

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見立てに付きましては、以下のように考えています。
 まず重治ですが、彼は娘の無残な殺され方に見立てて四人を殺害しようと考えました。重治の娘は殺された後、藤堂たち四人によって、橋下に吊られたり、首を切られたり、岩の上で燃やされたりと散々おもちゃのように扱われた後、燃やされた舟の中に捨てられたからです。
 そのため重治は藤堂の体を橋から吊り、浅見の首を切断し、陣内を岩の上で燃やし、和摩を燃え盛る舟の上で焼き殺そうと考えていました。重治は娘の死体にされたのと同じ事を、彼らにやってやろうと思っていたのです。

 一方英信は死んでしまった母から、重治が自分の祖父である事や、その重治が中国でどのような体験をしたのかなどを聞いていました。そして英信は、重治の家庭を壊してしまった四人の日本兵を探し続けます。
 ようやく英信がそのうちの一人である藤堂の行方を探し当てると、彼は長瀞町にいて、英信が探していた陣内たちを集めて年に一度、戦友慰霊会を開いていました。驚いた事に帰国したのかさえ定かではなかった重治も、そのメンバーに名を連ねています。
 英信は祖父が復讐のため巧みにターゲットたちを集めたのだという事に気づきます。そして英信は自分の正体を隠したまま藤堂に近づき、想流亭の従業員となりました。これはいざとなったら重治を助けよう、あるいは場合によっては重治の代わりに自分が復讐を、と考えたからです。

 やがて復讐が始まり、ついには重治も死んでしまいます。重治の死体を発見した英信は、重治が犯人であるという事と、和摩が義足であったという事を隠そうと考えます。中国で家庭を壊され、その復讐のためだけに生きてきた祖父に殺人犯の汚名を着せたくはありませんでしたし、和摩が義足である事を隠そうとしたのは、汐織のためでした。
 そのためには死体の足を切断する必要があります。しかしただ切断をしたのでは、その真の理由に気づかれる可能性があります。そこで英信は重治の死体をばけ狐という民話に見立てる事を思いつきます。といいますのも、秩父地方に昔から伝わる民話の中に、藤堂たちの死体の様子と似ているものがあったためです。
 重治の死体をばけ狐に見立てれば、これは民話に見立てた五つの連続殺人であると警察は誤解をし、重治の腿切断の理由を隠せると考えたからです。そのため、あるいは自分が疑われる可能性があることは覚悟していました。

 以上、見立てにつきましては、
 重治は娘の殺され方に見立ててターゲットたちを殺害しようとした。そして藤堂たちの死体の様子が民話に似ていたため、英信はそれを利用して腿切断の本当の意味を隠すとともに、重治を被害者のひとりであるかのように見せかけるため、彼の死体をばけ狐に見立て、今回の事件が民話に見立てられた五つの連続殺人であるかのように偽装をした。
 という風に考えていましたが、先生はどのようにお感じになられましたでしょうか。ご教示下さいますと大変助かります。そして先生のお考えを基にすぐ修正を、と考えています。

 私の説明が大変稚拙であったため、先生にご迷惑をお掛けしてしまいました。深くお詫びいたします。申し訳ありませんでした。