南雲堂刊、『天に還る舟』のできるまで

天に還る舟に関してのやり取りをご紹介します。
>>これを読まれるのは、作品を読まれてからにすることをお勧めします!<<

Vol.004

小島さん、

 メイルのご返事遅くなり、大変申し訳ありません。昨日こちらに戻ってきました。
 東京では追われまくっておりまして、連絡遅れがちになリ、申し訳ありません。
 まずご心配のことですが、東京にいただいたメイルは、すべて届いています。もしも昨日あたり東京にいただいたものがあれば、ご面倒ですがこちらに再送いただけますでしょうか。

 あらすじは、もうすいぶん前に読ませていただいています。大変見事なものになりましたね。立派なものです。うまくやれば傑作の誕生でしょう。先日3人の出版を決定したこと、南雲さんに報告していただきましたが、私はもっか、小島さんのものに最も期待しています。
 添付でいただいた、中村の特徴の抽出もよいですね。あのような押さえ方で完全と感じます。

 1読後、最も気になったのは、なんといっても「第3の殺人」です。これは特に意地悪気分なく読んでいく読者も、かなり気になると思われます。やはりここだけは、さらなる改善の要があるでしょうね。
 鎖の上を、柄のついた斧(つまり左右幅はあるが、刃物部分の幅はごく狭い刃物)が滑っていくとすると、うまく犠牲者の首を跳ねる確率もある替わりに、鎖からはずれて、犠牲者に到達する前に下に落ちてしまう確率も、もっとあるように思われます。客観的に見て、この計画も失敗させる方が、対読者の説得力は出ますね。しかしここは首が落ちていないとうまくないところですね。
 大袈裟でも、もっと完全な「首跳ね装置」を作るか、そうでないなら、横幅のある青龍刀のような重い刃物を用意するか、あるいはこれもまた失敗させ、それでもよいように話を作るか、たとえば後で犯人に首を跳ねに行かせ、それでも持つようなストーリーを作るかしないと、ここは読者に、発想を稚拙に感じさせてしまうと思います。落ちついたら私もきちんと考えますが、ここはもう一考してみてもらえないでしょうか。何かさらにアイデアはないですか?

 以下、いただいたあらすじに沿って、意見述べます。

 中国大陸での日本軍のエピソードはとてもいいですね。そういう日本軍の残虐を、物語りに大いに反映させましょう。
 小島さんの心配は戦中派からのクレームでしょうか。これは文章表現の手加減、数字の手加減で対応できます。文章あがってから心配しましょう。第1稿は、思いきり告発ふうに書いてもいいですよ。戦争はそういうものです。これは実は日本軍だけに限ってはいません。ヴェトナム戦争中、韓国兵だってやっています。
 
 復讐劇を始めるまでの前段階の段取り、とてもいいですね。これはもう完全なものになってきました。

 長澤由紀子が旅館で働いているという設定は、それでよいと思います。狭い村でのこと、あり得る話と思います。
 ただ由紀子は、中村の「火刑都市」のヒロインと同名ですね。できたら別の名前にしましょう。小島さんがどうしてもというならママでいいですが。

 第1の殺人、とてもいいですね。鬼が舟で天に帰ろうとしたのなら、顔が赤いかもしれませんね。赤い塗料を顔に塗られているかもしれません。これは中国での日本軍の行為の見立てにも見えます。
 ただ「天に還る舟」はタイトルでもありますから、この帰還は、総括的、抱合的、象徴的なものでありたいですね。

 第2の殺人の、自動発火装置の失敗はとてもいいです。大いにあり得ることと信じられます。ただこの発火は、かなりの音がするでしょう。小さな爆発ですから。けっこう渓谷を揺さぶる大音響という感じにもなるかもしれません。これは、目撃した老人が耳が遠かった、ということにでもするといいかと思います。

 刑事2人のタイプの性格は、もとのままでいいと思います。こういう連中は世間や警察にいますね。戦争に行けば、持ち前の小心さから、さっそく残虐行為をやるのでしょう。

 中村は、三国志の知識とか、漢詩の素養はありそうに思えます。このあたりを踏まえて、物語を組むのがいいでしょうね。漢詩の見たては中村の発想で、そのために捜査がやや間違った方向に入り込む、というのはいいと思います。ここは海老原は静観していていいのではないでしょうか。

 民話、「天に還る舟」の内容が鬼の話というのは面白いと思います。足の切断は、民話のどこかに象徴的に出てきていいと思います。ここに組み込むことも考えてみていいですね。鬼の足を食べてどうかなった話とか、あるいは鬼が人間の足を好んで食べる話、などですね。
 秩父には、「鬼の洞窟」の話はないですか? 荒涼たる岩場、山岳地帯がある場所には、鬼伝説が生じやすいというのを以前に聞いたことがあります。

 この足切断のトリックは、もっと面白いことがやれそうな気もします。この足切断にのみ着目して、理由説明と、被害者の名前を挙げての段取説明、経過をより詳しく話してみてもらえないでしょうか。
 
 ワスソン役の鈴木たつるという人は、私も今回は出さない方がいいと思います。話が込み入ってきていますから、中心の群像はシンプルな方がいいでしょう。次回の「海老原もの」までとっておきましょうか。

 吉敷がちらと登場というのは面白いアイデアですね。是非やってみましょう。

 ほとんどできましたね。もう少しです。あと1踏ん張り、是非頑張ってみてください。よろしくお願いします。

島田荘司。