南雲堂刊、『天に還る舟』のできるまで

天に還る舟に関してのやり取りをご紹介します。
>>これを読まれるのは、作品を読まれてからにすることをお勧めします!<<

Vol.007

小島正樹さん、

 とてもよくなったと思います。以下で、若干の要望点と、ご質問にお答えしますが、もう書き始めてもよい段階に来たと思います。あともう1回程度やり取りしたら、始めてください。
 作品は、すっかりできあがってから一挙に送ってもらうと、こちらの加筆、修正に時間がかかることが予想されますので、原則的に、章中の1ずつWord添付で送ってくれるようにしてください。最初だけは、一章すべてができてから、という形でもいいです。最初はなかなか乗らないでしょうから。
 こちらが加筆修正したものは、いちいちそちらに戻すようにします。ただ、ずっとこれにかかりっきりになれないので、滞る時もあるかと思います。

島田荘司。

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>※以下のあらすじは変更後の名前を使用しています。

 名前、なかなかよいです。特殊感が出てきました。ただ香織だけ、これは「眩暈」に出てきていた名前と思いますので、別の名前でもいいですね。しかしママでもいいです。

>1.
 昭和58年12月。一年に及んだ「火刑都市」事件を解決した中村刑事は休暇を取り、妻の実家がある秩父市に帰省をしていました。ある日、妻の実家が懇意にしている藤堂菊一郎という人物が亡くなったとの知らせが届き、中村刑事は病弱な妻の代わりとして告別式に出席します。

 
 よいですね。

>2.
 告別式で中村刑事は駐在から、死体の様子を詳しく聞きます。死体は秩父鉄道の鉄橋から、小さな舟とともにぶら下がっていました。そして顔には赤い塗料が塗られていたといいます。

 とても魅力的な出だしです。

>3.
 外傷もなく手足なども縛られていないことから、地元署はこれを奇妙な自殺と判断していましたが、中村刑事は腑に落ちないものを感じました。どうにも自殺とは思えないのです。そこで休暇を利用して独自に捜査を開始しようと思います。またこの時、海老原浩一と知り合います。親子ほども年齢の違うふたりは不思議に馬が合い、海老原が事件に興味を示した事などもあり、以後ふたりは行動をともにします。

>4.
 告別式で採取した菊一郎の評判は、すこぶる良いものばかりでした。中村刑事は、菊一郎に対して、好々爺といった印象を抱きます。

>5.
 告別式後、中村刑事と海老原は、菊一郎がオーナーを務める旅館「想流亭」を訪ねます。毎年この時期、菊一郎が主宰する戦友慰霊会がこの旅館で開かれており、このときも日中戦争に従軍した者たちが、想流亭に泊まっていたのです。そこで中村刑事は関係者たちから菊一郎が死んだ夜のことを聞きます。

>6.
 翌日未明。藤堂菊一郎は自殺ではないとする中村刑事の考えを、証明するかのような事件が起こります。慰霊会の会員であり、想流亭に宿泊していた陣内恭蔵の死体が発見されたのです。死体は荒川に突き出た岩の上で燃やされていました。

 これは、燃やされていたのに、顔に顔料が塗られていたのが解ったのですね? 頭部は燃え残っていた、ということですね?

>7.
 死体を発見したのは、この町に住むひとりの老人でした。彼は半年ほど前からほとんど毎朝この河原にきては、鳥たちに餌をやるのを日課としていました。この日、いつものように河原に降りてきた彼は、岩の上に黒い布のようなものが、かぶさっているのを見つけます。そして、不審に思ってそちらの方へ近づいた時、目の前の岩が突如爆発的に燃え上がったのです。あまりの驚きにその場にへたり込んだ老人は、その時小さな火の玉が岩から天へ昇ってゆくのを見たといいます。

 この時刻は何時でしょう。まだ薄暗い早朝という方が信じられますね。 

>8.
 その後老人は近くの駐在所へ行き、この事を警察官に知らせます。警察官が現場に駆けつけてみると、岩の上の黒い布はほとんど燃えてしまっており、その下には陣内恭蔵の死体がありました。調べてみると岩と死体には多量のガソリンが撒かれていたようです。第一発見者の老人は、この日風邪をひいていて、鼻を詰まらせていましたので、辺りに漂うガソリンの匂いには気が付かなかったといいます。

>9.
 この事件により町は大騒ぎとなり、藤堂菊一郎の死も自殺から他殺へと見方が変わりました。秩父署には捜査本部が置かれ、埼玉県警の捜査第一課からも西宮伊知郎と川島秀仁の二人の刑事が派遣されます。

>10.
 中村刑事は一個人として、海老原を伴い独自に第二の殺人を調べて行きます。しかし不可解な事ばかりが浮かび上がりました。まず燃えた原因ですが、岩や陣内の死体からガソリンは検出されましたが、時限発火装置のようなものはいっさい見つかりませんでした。また老人は火がついた時、辺りに人はいなかったと証言しています。この老人、耳はかなり遠いのですが目はよく、この点は間違いなさそうです。ではどう
して火がついたのか。自然に発火するような条件はまったくありません。謎を解く鍵はふたつ。被害者の頭部に挟まっていた扇子の燃え残りと、第一発見者の老人が見たという天に昇る小さな火の玉だけです。そして、陣内恭蔵の顔もまた赤く塗られていました。

>11.
 なぜ火がついたのか。中村刑事は、海老原とともに聞き込みを続けます。すると陣内の死体が発見された岩の近くに住む老婆が、不思議な話をしてくれました。老婆によると、陣内が死んでいた岩の辺りはもう何年も前から、特に冬場になると夜中に不思議な火の出る事が多いのだそうです。その火は一瞬の間に消え、慌てて岩の近くに行ってみても誰も居ないのだと言います。「狐火だよ」と老婆は言い、秩父地方に伝わる狐火に関する民話を中村刑事たちに語って聞かせます。

 ここはよいですね。

>12.
 中村刑事たちは、老人が死体が発見するより一時間ほど前に、現場を通りかかったという人物に会うことも出来ました。彼は毎朝未明、犬の散歩で必ず岩の近くにかかる橋を渡るのだそうです。辺りが暗いということもあり、その時彼は特に異常を感じなかったといいます。ただ橋を渡りきる直前に、何かがこすれるような音を聞いた気がすると話しました。

>13.
 翌日の朝、今度は浅見喬が旅館から姿を消します。警察はすぐに捜索をはじめ、やがて浅見の死体が発見されます。浅見が見つかったのは長瀞町のほぼ中央に位置するオートキャンプ場のはずれで、ここは冬期閉鎖中でしたので滅多に人が訪れることもなく、通常なら死体はなかなか見つからないところですが、捜索開始から一時間ほどで発見されました。これは中村刑事の提案によるもので、彼は第一、第二の殺人とも川沿いで起きている事に気づき、河原付近をまずはじめに調べるよう指示したのです。

>14.
 県警の捜査一課から派遣された西宮という刑事は、この頃から中村刑事への敵意をむき出しにして、何かにつけて突っかかってくるようになります。

 突っかかるというより、冷笑的というくらいでないと、先でまずいかもしれません。

>15.
 河原で見つかった浅見の死体もまた、不可解なものでした。この辺りは砂地で、所々に岩が突き出ています。浅見はそのうちのひとつ、小さな自動車ほどの大きさをもつ岩の上で死んでいました。死体は鎖で岩に縛りつけられており、首を切断されています。
 浅見の首は近くの砂地に転がっていました。またもやその顔は赤く塗られています。その横には血にまみれた中国製の鉄刀が砂中に埋まっていました。
 そしてこれが一番不思議だったのですが、遺体はまるで「大きく前ならえ」をするかのように、両腕を対岸に向かって突き出しているのです。その腕には長い鎖が結ばれていました。鎖の先端は川の中に没しています。
 中村刑事と海老原は対岸にまわるとそこの崖に上ってみます。するとそこからは浅見の遺体がよく見えました。遮るものはなにもありません。そして浅見の両腕は、中村刑事と海老原が立つ崖の上にぴったりと向けられていました。また、その崖は近くの木々に遮られて陽があたらないためか、ずいぶんと湿っていました。

 この殺人が、やはり1番の心配ですね。氷のストッパーが2つあれば、片方が先に熔け、青龍刀がやはり横に落ちるという可能性もありますね。

>16.
 浅見殺害に使われた鉄刀は想流亭に飾られていたものでした。かつて藤堂の戦友が大陸で、中国軍により鉄刀で殺されたということがあり、藤堂はその戦友を忘れないため、想流亭に鉄刀を飾っていたのです。

 これはいいと思います。チャイナ・タウンに行ったら、各種青龍刀の模型の玩具がありました。買ってきましたので、この次、写真を送ります。

>17.
 浅見の死体が見つかった後、現場付近を調べていた警察は奇妙なものを発見します。浅見を殺した凶器とほとんど同じような形の刀が、近くの大岩の上で見つかったのです。刀は岩の上の土が溜まった部分に突き刺さっていました。しかし大岩は絶壁で、ロッククライミングの経験者でなければとても登れません。そして誰かが岩に登ったような形跡は一切ありませんでした。一体誰が何の目的で、そしていかなる方法で絶壁の大岩の上に刀を突き立てたのか。これはなんとも不可解な謎として、捜査陣にのしかかります。

 ここはよいですが、これが解けないと犯人が解らないというものではないので、いわば傍流です。「捜査陣にのしかかる」というまでのものではないと思います。西宮あたりは、こんなものには鼻も引っ掛けないでしょう。

>18.
 またこの頃、浅見殺害の現場付近で、深夜に小さな光る竜をみたというアヴェックが見つかります。県警の西宮はこの話しを一笑に付しますが、中村刑事と海老原はこれは必ず事件に関係があるものだと考えます。

>19.
 中村刑事は告別式で岡部菊一郎の奇怪な死に方を聞いて以来、これは尋常な事件ではないとの予感を抱いていましたが、それは的中しました。第二、第三の殺人とも、死体は明らかに何かに見立てられているのです。一体何に見立てられているのでしょう。殺された三人に共通するのは日中戦争に従軍した経験を持つ事と、いずれも川付近で殺されている事、そして顔をまるで京劇の役者のように赤く塗られていることで
す。
 中村刑事は考え続けます。そして浅見が殺害されていた現場に落ちていた、砂に埋もれた斧が、彼に天啓を与えます。漢詩です。あの斧は杜牧の「赤壁」という漢詩に見立てられたものではなかったか。中村刑事は絵を愛していた母の影響か画家としての素質を持ち、絵画以外にも広く芸術に精通しています。漢詩も無論知っていて、豪邁といわれる杜牧の作品を、彼は気に入っていました。

 ここはとてもよいと思います。

>20.
 中村刑事は早速秩父市内の図書館へ行き、杜牧の漢詩を調べて行きます。しかし「赤壁」以外、見立てに当てはまりそうな漢詩はありません。漢詩見立てではないのか。中村刑事は落胆しかかりますが、今度は赤壁を詠う漢詩を調べてみます。このあたり、海老原は静観をしていますので、中村刑事は一人で漢詩を調べ続けます。

 よいですね。

>21.
 古戦場として名高い赤壁は著名な詩人が訪れては作品を作っており、調べてゆくと杜牧のほかにも蘇軾や李白が赤壁と題する詩を詠んでいました。蘇軾はふたつ作っていますので、赤壁を詠う漢詩はとりあえず四つある事になります。もちろんほかにも赤壁に関する漢詩はあるでしょうが、誰でもその名を知っているような著名な詩人の作品はこの四つです。
 中村刑事は三つの死体の様子と漢詩を付け合せてゆきます。すると藤堂菊一郎の死が蘇軾の「赤壁の賦」に、陣内恭蔵の死が同じく蘇軾の「赤壁懐古」に、浅見喬の死が杜牧の「赤壁」に合致しました。残る漢詩は李白の「赤壁の歌 送別」のみです。
中村刑事はもうひとり、誰かがこの詩に見立てて殺されるのでは思います。

 これもいいですね。

>22.
 しかしこの予感は当りませんでした。翌日早朝、二つの死体が発見されるのです。
ひとつは秋島重治のもので、その死体は警察官の制服を着ていて、右足付け根にはトラバサミが挟まっていました。そして不思議なことに、右足の腿から膝部分だけが切り取られていました。重治の義足はありましたので、誰かが腿部分だけを持ち去ったことになります。

 とてもよいです。

>23.
 もうひとつ、長澤和摩の死体も奇妙なものでした。その体は真っ黒に焼け爛れ、さかれた腹からは黒い蛇のような腸があふれ出ています。そして両足は膝から下で切断されていました。このふたつの死体は今までとは違い、顔は赤く塗られてはいませんでした。

 これでいいですね。

>24.
 こうして慰霊会の会員はすべて死んでしまいました。漢詩見立てが間違いであったことに気づいた中村刑事は、海老原とともに聞き込みを繰り返しますが、特に新しい情報を得ることはできません。

>25.
 行き詰まった二人は図書館へ行き、何かのヒントが得られればと、新聞の地方版を片っ端から調べて行きます。そして数年ほど前に掲載された「現代に蘇った民話」という記事を見つけます。そこには新品の斧を何本も拾った男の話が載っていました。
これは事件に関係があると直感した二人はその記事を書いた記者を訪ね、斧を拾った男を紹介してもらうと、その男から詳しい話しを聞きます。

 非常によいです。

>26.
 中村刑事と海老原は事件のことを考えます。老婆が見たという狐火、アヴェックが目撃した小さな竜、そして蘇った民話。瞬間、中村刑事はある閃きに包まれます。五つの死体は民話に見立てられたのではないか。顔が赤く塗られていたのは、鬼が出てくる民話に見立てたからではないか。そして二人は何十年も民話の語り部を続けているというこの町の老婆を訪ねます。

>28.
 二人は鬼が出てくる民話を話してもらうよう語り部に頼みます。しかし老婆が語ったのは僧がとんちで鬼を退治する民話でした。これは事件とは関係なさそうです。中村は別の鬼の話をせがみます。
 すると老婆は「天に還る舟」という民話を語り始めました。これです。この民話こそ藤堂が見立てられていたものでした。二人はさらに老婆から「じじばば石」、「鎖に繋がれた竜」「ばけ狐」「アメフレフレ」という四つの民話を聞き出します。この四つの民話は残り四人の死体の様子と酷似していました。

 よいですね。

>29.
 海老原の友人である涌井英信は、昔から民話や伝説などに興味を抱いていました。
英信が事件に関わっている事を確信した二人は想流亭へ急ぎます。しかし二人が行ってみると、英信はすでに警察によって連行された後でした。

>30.
 二人はその足で秩父署へ行きます。しかし西宮の妨害により英信に面会することは出来ませんでした。英信は黙秘を続けていますが、彼が犯人であるのは間違いないため、このまま送検するつもりだと西宮は言います。英信が犯人とは思えない中村刑事は「また一つ冤罪事件を増やしたいのか」と詰め寄りますが、西宮は取り合いません。

>31.
 しばらく押し問答が続いた後、西宮がせせら笑いながらこう言います。「それじゃあ一日だけ時間をやろうか。本庁の優秀な刑事さんだったら一日もあれば事件のすべてを解明できるでしょう。明日の朝にでもまたお会いしましょう。そしてもし、明日の朝までに事件を解決できなかったら、その時は直ちに涌井英信を送検します。五人も殺したとなればね、奴は間違いなく縛り首だ」中村刑事は翌日、想流亭で会うことを西宮と約束します。

 ここはちょっと厳しいところです。中村は桜田門の現職刑事ですから、ここまで県警の西宮が強気の態度に出られるかは疑問です。中村が若く、駈け出しの頃とか、退職でもしていればよいのですが。しかし、「管轄が違うんでね、ご協力はありがた迷惑なんですよ」、といったあたりで押しきるのは、なんとか可能でしょうね。
 西宮に、ここまで思いきって傲慢な態度はとらせない方がいいです。ここはあくまで筋論でしょうね。あんまり傲慢だと、中村が秩父署の中にも入れないことになってしまいます。

>32.
 秩父署を出ると海老原は、再び図書館へ行くと言います。中村刑事がわけを尋ねると、海老原は過去の気象情報を得るためだといいます。なぜ天気を、と中村刑事はいぶかしみますが、ここでいったん二人は別れます。

>33.
 中村刑事は浅見が殺されていた現場に一人で行くと、そこで斧を拾った男の話をぼんやりと考えます。下流で見つかった斧、両腕を突き出した死体、絶壁の岩に突き刺さった刀、小さな竜を見たというアヴェック。
 その時、一見ばらばらに思えるこれらのピースが中村刑事の中で一つに繋がり、第三の殺人トリックを見破ります。そして海老原が図書館に行ったのは、男が斧を発見した年に大きな台風がこの町を襲ったかどうかを調べるためだったのかと思います。

 これは、まずまずですね。要するに、大増水の必要があるわけですね。台風でもいいですが、それだけを調べていると、案外大雨を見落とすかもしれませんね。

>34.
 二人は合流します。やはりあの年、この町には大きな台風が来ていました。続いて二人は陣内が殺されていた現場に行きます。陣内が殺され突然岩が炎に包まれた件に関しては、海老原はかなり以前からそのトリックに気がついていました。しかしあまりに破天荒な考えだったため、それを中村刑事に言い出せずにいたのです。現場を見ながら海老原はトリックを語ります。そして中村刑事はその考えに間違いがないことを確信します。

 雨台風がいいですね。

>35.
 あともう少しです。しかし第一の殺人、これだけがわかりません。そして二人はライン下りの船に乗ります。この時期ライン下りはやっていませんが、これは渡辺巡査の好意で、川から各現場を眺めれば何かが掴めるかも知れないと考えた巡査が、船の手配をしてくれたのです。ライン下りの船上から、石が結び付けられたロープを発見した中村刑事は、ついに第一の殺人トリックを解明します。

 もっと鮮やかな着想の引き金があると、さらに格好よいのですけれどね。まだちょっと散文的です。でも、なければ、これでもいいでしょう。

>36.
 第一の殺人を行なうことが出来るのは重治だけです。すると重治は義足ではなかった事になります。では重治の死体近くにあった義足は誰の物なのか。長澤和摩の物である可能性が強いと思った二人は娘の香織を訪ねます。

 ここはよくないです。まず第1の殺人ができるのは重治だけとする理由はなんですか? もしあったとすれば、この段階では、これはまだはずしておく方がよいです。
ここでは、やろうと思えば誰もができる、という状態にしておくのがよいです。したがって、重治はまだ疑惑の圏外です。2人が重治に気づくのは、必ず義足トリックの解明と共にでなくては切れ味が出ません。義足のトリックが、かえって犯人を特定するわけです。

>37.
 香織は中々話そうとはしませんでしたが、英信が明日にでも送検される可能性があると話し、中村刑事が粘り強く説得をすると、父の和摩が義足であった事を話します。すると和摩の死体と共に舟の上に置かれていた右足は、切断された重治のものだという事になります。
 これはすぐに調べなくてはなりません。実は立て続けに奇妙な死体が五つも出たため検死が追いつかず、重治と和摩の死体は埼玉県警(あるいは桜田門)の霊安室に冷凍したまま置かれているのです。しかし中村刑事たちにそれを確認している時間はありませんでした。そのため中村刑事は捜査一課の吉敷竹史刑事に連絡を取り、死体の確認を依頼します。

 ここもよくないです。真相は香織からでなく、必ず探偵2人の推理によるべきです。ここではまだ、義足のことは気づきません。
 霊安室は桜田門だけにあり、死体はここに行っているので、ここでちょっと一課の吉敷をわずらわせるのは面白いですね。

>38.
 もうひとつ、香織は重大な話を二人にします。それは重治と和摩の死体が発見された後に、英信からある鍵を預かったというのです。それがどこの鍵なのか英信は話しませんでしたが、とても大切なものだと言っていたといいます。二人は香織から鍵を受け取ります。それはどこかの家の鍵のようです。

 これはよいですね。2人がここで香織から得るものは、これだけとするのがいいでしょう。

>※この鍵は重治が偽名で借りた家のもので、重治の死体から服を脱がせて警察官の制服を着させようとした時、英信が重治のズボンのポケットから見つけて、取っておいたものです。

 これはよいでしょう。

>39.
 鍵を手に二人は、一軒一軒不動産屋を当たります。しかし鍵に見覚えがあるという話には行き当たりません。時間ばかりが過ぎて行きます。やがて、とうとう二人はその鍵のことを知っている不動産屋にたどり着きます。これは近くの借家の鍵で、昨年賃貸契約を結んだ老人に貸し与えたものだといいます。
 もう夜が明けていました。不動産屋に案内された二人は、持っていた鍵を使って老人が借りたという借家の中に入ります。するとそこには今回の事件で使われた鎖やロープの残りがありました。氷の塊を作るためなのか、冷凍庫も置かれています。また、そこで二人は重治が書いた手記を見つけます。

 ここはなかなか見つからず、サスペンスを盛り上げるのがいいですね。
 そしてついに見つけた借家で、ようやく2人は重治の義足に疑いを持ちます。理由は、義足では絶対に行えない何らかの装置がここにあったからです。たとえば梯子?
 縄跳び? 自転車? もっとはっきりしたものがいいですね。これを何か考えてみてください。
 そこで2人は、重治の死体一緒に発見した義足を、ここで丹念に調べます(義足はまだ秩父署にある)。するとこれに、ごく小さな「K.N」のイニシァル、秋島重治の「J.A」ではない。ここで2人はようやく、そして劇的に、重治の長年の義足のトリックと、重治と長澤の足切断の、真の理由に思い至ります。
 そして考えに考え、推理を巡らせ、誰がこんな手の込んだことをやったかに、ついに思い至ります。すでに死んでいる者が犯人だ! そして補完した者がいる!(これまでは、どうやったかは解明しつつありましたが、誰がそれをやったかは、2人には解っていませんでした)

>40.
 約束の時間。二人が想流亭へ行くと西宮はもう来ていました。香織たち従業員の姿も見えます。そこで中村刑事と海老原は事件の真相をすべて話します。
 西宮は納得せず、その借家は老人を使って英信が借りたものではないか、などと感情的な反論を試みますが、その時想流亭に吉敷竹史刑事から連絡があり、長澤和摩の死体の近くに置かれていた右足は重治のものである事が確認できたとの知らせが入ります。

 この義足こそが、事件解明の鍵です。この解明は、中心の2人にやらせなくてはなりません。

>41.
 なぜ、重治は藤堂菊一郎らを殺したのでしょうか。ここは重治の手記を中心に日中戦争と日本兵の残虐、そして、帰国後の重治が藤堂菊一郎を探し当て、他のターゲットたちを想流亭に集めるように仕向けたこと、集まったターゲットたちを娘の無残な死に方に見立てて殺していったこと、などを書こうと考えています。
 また手記につきましては、最初にお送りさせていただきましたものよりかなり長く書き直そうと思います。(最初にお送りさせていただいたものは400字詰め原稿用紙にして18枚程度でしたので少なくともその数倍程度)

 これはよいでしょう。存分にやってみてください。

>42.
 こうして事件は解決しました。しかし真相に行き当たった中村刑事は、どこか空しさのようなものを感じていました。殺されていった藤堂菊一郎たちもまた、戦争が生み出した狂気の、一被害者であったように思えたからです。中村刑事はそれからしばらく、孫の写真を見せ合っては楽しそうに語らう、浅見喬や、陣内恭蔵の姿を忘れることができませんでした。

>43.
 翌年6月。海老原と英信、香織の三人は警視庁に中村刑事を訪ねます。死体の足を切断した英信に執行猶予がついたので、そのお礼です。英信はこれより少し前に祖父の苗字を継ぎ、秋島英信となっていました。
 混血のファッションモデルのような、髪の長い鼻筋の良く通った男性刑事に案内された三人は、会議室のような場所に通され、久しぶりに中村刑事と再会します。中村刑事は相変わらずベレー帽を被っていました。
 三人は近況を報告します。英信は香織との結婚を決めていて、結婚後も二人で長瀞町に住み、祖父たちの墓を守って行きたいといいます。海老原は相変わらず、晴耕雨読の生活を続けているようです。三人は中村刑事と吉敷竹史刑事にお礼を言うと警視庁を後にしました。

>43.
 三人が帰ったあと、中村刑事はふいに「天に還る舟」の民話を思い出します。民話に出てくる鬼は、神に姿を変えて天へと還っていった。それはまるで藤堂たち五人の事ではないか。死ぬ前に見せた彼らの好々爺然とした顔は、まるで神のようではなかったか。本当に悪い人間などそういるものではない。
 鬼に殺された人たちは生き返ったが、重治たちや、あるいは彼らが殺した中国の人たちは二度と生き返る事はない。しかし彼らの子孫である英信と香織はやがて新しい生命を宿し、それを懸命に育んで行くのであろう。その新しい命のためにも、われわれは人を鬼に変えてしまうような状況を、二度と作らないよう努力を怠ってはならない。そう考えた中村刑事は、自分の中でようやくこの事件が解決したことを知ります。

>※33以降、中村刑事と海老原が事件の真相を解明して行く場面が続きますが、ここは事件のトリックや真犯人の名前などは読者の方に隠したまま話を進め、謎解きは最後の場面で一挙に、としたほうがよろしいでしょうか。あるいは読者の方は中村刑事とともに事件の真相をひとつひとつ知ってゆくというほうがよろしいでしょうか。どうすべきなのか、ずっと悩んでいます。先生はどのようにお考えになられるでしょうか。お教え頂けますと、とてもありがたいです。

 これはすでに書いておきました。どうやったかは解りつつあったが、誰がやったかは、義足のトリックに気づく後段まで解らない、とすべきです。

>※37と40、吉敷竹史刑事に電話で登場していただくという風にして見ましたが、吉敷竹史刑事は最後にチラっとだけ登場するというほうが良いと先生がご判断されるようでしたら、37と40は別の刑事(たとえば小谷刑事とか)か、あるいは特に刑事の名は出さずただ警視庁に連絡をしたとする、というように変えようかと思いますが、どうすればよろしいでしょうか。

 これも書いておきました。最後の方だけでなくてはいけないとは思いません。警視庁の霊安室の死体のチェックを、彼にやってもらいましょう。