南雲堂刊、『天に還る舟』のできるまで

天に還る舟に関してのやり取りをご紹介します。
>>これを読まれるのは、作品を読まれてからにすることをお勧めします!<<

Vol.008

小島さん、

 たった今、光文社の「吉敷竹史の肖像」のための中編「光る鶴」を脱稿し、メイル送したところです。これの追い込みにかかっていたので、返事遅くなりました。

>10、
※先生がご心配下さいましたように、死体は燃やされていたのに、その顔が塗料で赤く塗られていたのがすぐ分かるのは不自然かと思いましたので、少し変えてみました。先生はどのようにお感じになられるでしょうか。

 よいと思いますが、顔に塗る塗料は何なんでしょうね。ものによっては、熱を加えると特徴的なふるまいをするものがあるかもしれませんね。最初から燃やすつもりのものは、塗らない方が無難かもしれませんね。

>14.※
 県警の捜査一課から派遣された西宮という刑事は、この頃から中村刑事に対して冷笑的になり、どちらかといえば非協力的な態度に出る事が多くなります。

 これでよいと思います。

>15.
※この殺人につきましては、より成功確立を高めるような工夫を、書き始めた後も引き続き考えようと思います。ご教示ありがとうございました。

 それがいいですね。是非もうひと頑張りやってみてください。しかし、基本的にはもう完成していると思います。本番になれば、必ず浮かぶことがあります。

>16.
 浅見殺害に使われた鉄刀は想流亭に飾られていたものでした。かつて藤堂の戦友が大陸で、中国軍により鉄刀で殺されたということがあり、藤堂はその戦友を忘れないため、想流亭に鉄刀を飾っていたのです。

 いいと思います。

>17.※
 浅見の死体が見つかった後、現場付近を調べていた警察は奇妙なものを発見します。浅見を殺した凶器と、ほとんど同じような形の刀が、近くの大岩の上で見つかったのです。刀は岩の上の土が溜まった部分に突き刺さっていました。しかし大岩は絶壁で、ロッククライミングの経験者でなければとても登れません。そして誰かが岩に登ったような形跡は一切ありませんでした。一体誰が何の目的で、そしていかなる方法で絶壁の大岩の上に刀を突き立てたのでしょう。この事に、県警の西宮たちはそれほどの興味は示しませんでしたが、中村刑事と海老原は気に留めておきます。

 そんな感じでいいと思います。

>30.※
 二人はその足で秩父署へ行き、西宮から事情を聞きます。英信は黙秘を続けているようですが、彼が犯人である事は間違いないため、このまま送検するつもりだと西宮は言います。英信が犯人とは思えない中村刑事は「また一つ冤罪事件を増やしたいのか」と詰め寄りますが、西宮は取り合いません。

※英信が連行された理由としましては、

@藤堂たちの顔に塗られていた塗料、浅見の首を切断した青龍刀、重治の足に挟まっていたトラバサミなど、想流亭にあったものが犯行に使われている事が多く、特にトラバサミは、最近では狐も滅多に出ないため納屋の奥に仕舞われており、それを知るのは従業員しかいないと考えられる事。

A英信は秩父地方の伝説に興味を抱いており、五人の被害者は民話に見立てられていた可能性が高いと思われる事。

B英信が任意で提出した指紋が、脱がされた重治の服から検出された指紋と一致した事。(英信は指紋を残さないよう手袋をして重治と和摩の死体に様々な工作をしたのですが、最初に重治の死体を発見した時、素手のままとっさに抱き起こしてしまったのです。そのため脱がされた重治の服にだけ指紋が残っていました)などを想定しています。あるいは英信の部屋から重治の腿部分が見つかったという風にしようかとも思いましたが、先生はどのようにお考えになられますでしょうか。

 まず、ファブリックからは指紋の検出はむずかしいと思います。パラシュート地、ヴィニール素材などならいいでしょうね。むしろ人間の皮膚からの方が、指紋が採れることはあるようです。
 英信の部屋から膝が出る、というのが決定的でいいと思います。
 というのは、警察の考える動機というのは散文的で、たいてい色と欲で、金が絡む、女が絡む、不動産が手に入る、などとしないとピンと来ないところがあります。
こういう動機だと、大喜びで逮捕します。これを作った方が、地方警察の誤認逮捕らしくてよいですね。@ABだと、ちょっとどうかなというところがあります。

>31.※
 「管轄が違うんでね、ご協力はありがた迷惑なんですよ」と西宮は言い、送検を待って欲しいという中村刑事の申し出を断ります。しかし、中村刑事の粘り強い説得や、相手が警視庁の刑事であるため自分の保身などといったことにも考えが及び、やがて西宮は中村刑事に恩を着せるかのような様子で、一日だけ送検を待つと言います。翌日の朝、想流亭で会うことを西宮と約束した中村刑事は、秩父署を後にします。

 そんなところでよいと思います。

>※第一と第二の殺人トリックを見破る場面につきましては、その引き金となる着想をより鮮やかなものにするため、書き始めてからも引き続き考えようと思います。アイディアが浮かび次第、ご提案申し上げます。

 そうしてみてください。こういうものは、本番にかかると出てくることは多いです。

>33.※
 次は第二の殺人です。中村刑事と海老原は、陣内が殺されていた現場に行きます。
実はこの殺人に関しては、海老原はかなり以前からそのトリックに気がついていました。しかしあまりに破天荒な考えだったため、それを中村刑事に言い出せずにいたのです。現場を見ながら海老原はトリックを語ります。そして中村刑事はその考えに間違いがないことを確信します。

 いいと思います。

>※前回のご提案では、中村刑事は浅見殺しのトリックをただ天啓で見破ったとしていましたが、これを青龍刀と同じ軌道を描いて飛ぶカラスを見て、天啓が閃くとして見ました。そうしてみますと、このトリック解明は後に持ってきたほうがよいかと思い、また第一の殺人から順番に解明して行くほうが自然かなとも考え、32以降順序を変えてみました。先生はどのようにお感じになられるでしょうか。

 これはとてもいいです。解明の順番もこれがいいですね。

>※先生がお教えくださいました「義足では絶対に行なえない何らかの装置」に付きましては、とりあえず登山靴として見ましたが、もっと象徴的な、普段の生活にさりげなく登場していて、それでいて義足では絶対に出来ないような、読者の方が「あっ」と思われるものを見つけようと思います。書き始めてからも平行して考え、浮かびましたらご提案申し上げようと思いますが、よろしいでしょうか。

 これもなかなかよいです。確かに、さらにあっと驚く何かがあった方が、切れ味は出ますね。これは本番にかかったら、浮かぶかもしれません。しかし、登山靴だけでもいいと思いますよ。

>39※
 秩父署についた二人は義足を丹念に調べます。すると裏側のごく目立たないところにK.Nとイニシャルが打たれていました。もしこの義足が重治のものなら、そのイニシャルはS.Aでなければなりません。やはりこの義足は重治のものではなかったのです。ではだれの物か。事件の関係者の中でこのイニシャルをもつ者は長澤和摩だけです。
 これはすぐに調べなくてはなりません。実は立て続けに奇妙な死体が五つも出たため検死が追いつかず、重治と和摩の死体は警視庁の霊安室に冷凍したまま置かれているのです。
 しかし中村刑事たちにそれを確認している時間はありません。そのため中村刑事は捜査一課に連絡を取ります。幸い吉敷竹史刑事が宿直として署に残っていました。中村刑事は吉敷竹史刑事に、簡単に事情を話すと、長澤和摩の足が誰のものであるのか、至急確認をしてもらうよう頼みます。吉敷刑事は快諾しすぐに動いてくれました。

>40.※
やがて吉敷竹史刑事から秩父署へ中村刑事宛てに電話がありました。やはり長澤和摩のものと思われていた右足は、秋島重治のものでした。

 これでいいと思います。

>41※
 もう夜明けが近づいています。貸家に戻った中村刑事と海老原は推理を続けます。
そして考えに考えた末、ついに真実へとたどり着きます。また、この時重治の手記も見つけ、動機も判明します。

>※真犯人の名や、事件の詳しい内容、そして事件の背景とその動機につきましては、42以降で中村刑事と海老原が関係者を前に解明して行きますので、41では事件の詳しい内容には触れず、二人が一睡もしないで推理を重ね、真相に辿り着いた事のみ描写しようと思いますが、先生はどのようにお考えになられますでしょうか。

 それでよいと思います。

>42.※
 約束の時間。二人が想流亭へ行くと西宮はもう来ていました。汐織たち従業員の姿も見えます。そこで中村刑事と海老原は、重治が三人を殺した事、重治が義足と偽っていた事、和摩が義足であるのを隠していた事、和摩を殺そうとした重治が何らかのアクシデントで死んだ事、その後和摩が自殺をした事、それを見つけた英信がまるでパズル(を作る)ようなやり方で、二人の足を取り替えた事、そして英信が、重治の腿の切断をカモフラージュするため、腿にトラバサミを挟んだ事、さらにトラバサミをカモフラージュするため、重治の死体に警察官の制服を着せて「ばけ狐」に見立て、今回の事件が民話に見立てた五つの連続殺人事件であるかのように偽装した事などを話します。

 ちょっと解らない点がありますね。英信の意識としては、民話見立ては偽装なのですね。しかし重治は、民話見立てが計画通りなのですね? つまり英信の偽装というのは、これまでの犯人がこれもやったと見せかける、という意味で偽装なのですね?
 ここは重治は、もしも成功したら、どのようにして和摩の死体を、世間や警察に見せる計画だったのでしょう? これは作ってありましたか? ちょっと気になりますね。この一点だけ、教えてください。

 それから以降の教訓めいた着地は、一般的な発想を大きく超えるレヴェルのものならいいですが、そうでないなら、くどくならないようにしないといけませんよ。

 しかし、これでできたと思います。何か質問あればしてください。でも上の一点だけ教えてください。
 あとは本番の中でやりましょう。もう書き始めていいですよ。とてもいいと思います。

島田荘司。