世界の宗教の流れというものについて、ちょっと話しますと、まず最初に多神教としてのユダヤ教があったと考えていいと思います。ユダヤ民族がエジプトで奴隷にされていた時にモーゼという人が出てきてユダヤ民族をエジプトから脱出させる、そのモーゼを助けたのがヤーハエという神です。このヤーハエというのはヒブル、つまりヘブライ語で、フランス語などラテン語系ではヤーウェー、英語ではエホバです。

 その後で預言者としてのキリストが出てきて、キリスト教が誕生します。そのキリスト教誕生の直後に、この世界は苦難と悲惨に満ちている、この世界はヤーハエが創り出したものであるから、ヤーハエを神とは認めない。また、生身の人間としてのキリストは信じない、肉体つきのキリストを信じるのではなく、彼の内なる認識に従うのだというグノーシス派という一派が出てきたりする。
 この一派の中で最も有名なのがカタリ派で、彼らは十三世紀にフランスのモンセギュール城というところで滅ぼされるのですが、その直前に三、四人の男たちが城を脱出して近くの洞窟に逃げ込み、生き延びたといわれています。その時、彼らはカタリ派の宝物を持ち出していたといわれていて、それがキリストの血を受けた聖杯だというわけです。いわゆる聖杯伝説ですね。それからこの聖杯探しというものが何年かに一度、ブームのように起こるのですが、それを一冊の本にまとめたのがオットー・ラーンというドイツ人で、彼に目をつけたのがヒトラーとヒムラーなんですね。
 ヒトラーたちはあまり高度な教育を受けていなかったので、キリスト教を創ったのは実はアーリア人なんだといった伝説を信じるようになり、その証拠を探そうとして、あるいはでっち上げようとして、オットー・ラーンを親衛隊に組み入れて、聖杯を探してアジアまで人を派遣しています。まあ、全体としてそんな流れがありました。

 仏教の方はどうかといいますと、仏教が生まれたのはインドですが、今ではインドの人口の8割以上はヒンドゥー教徒で、仏教徒ではないんですね。現在熱烈な仏教国というと、タイやミャンマーであり、インドでは仏教は滅んでいるわけです。それでは仏教とヒンドゥー教との違いは何かというと、実は信者にしてみるとほとんど違いがない。だからあまり抵抗なく仏教徒がヒンドゥー教徒に移行し、結果として仏教は、ヒンドゥー教にいわば吸収されたかたちになったわけです。釈迦もマハビシュヌという神のもとに、聖人の一人として数えられている、という構造なんですね。

 イスラム教においても、キリストはアッラーの神のもとに預言者の一人として数えあげられています。ですから、もしヨーロッパの白人たちがイスラム教の信者になっていたなら、イスラム教がキリスト教を吸収していくというような流れになったかもしれません。

 そのような宗教全体の流れというか歴史について、以前から興味を持ってはいたんですが、アメリカで暮らすようになってから特に、他人(ひと)ごとでなくなりました。
 そんなところに、例のニューヨークの貿易センタービルのテロ事件が起こったんですね。このテロ事件に関しても、ハニー・アルフセインを通じてモスリム社会の情報がいろいろと入ってくるのですが、たとえばこんな話があります。
 事件直後、あのテロによって5千人くらいが亡くなったといわれていたのですが、その後、だんだん人数が減ってきて、いまでは3千人を切るくらいになっています。そんな中で、あのビルにはユダヤ系の会社もずいぶん入っていたみたいなんですが、少くともイスラエル系は、一人も死んでいないというんです。テロの当日、イスラエル系の会社はみんな休みになっていたというんですね。
 イスラエル人の運転手が、重役の車を運転して貿易センタービルに出勤する前、車のタイヤをパンクさせて逃亡した、などという噂も飛びかいました。つまりイスラエル系のジューイッシュたちは、9月11日に、何が起こるのかを知っていたというわけです。だからあの事件は、いわば真珠湾の伝であるといったことが、ずいぶん囁(ささや)かれているんですね。
 これは非常にミステリアスな話だということもできるし、まだ都市伝説の段階だという考え方もあり得るでしょう。ですが、イスラエルの情報機関であるモサドがテロの情報を掴んで、アメリカのCIA、および大統領に伝えたが、大統領がその情報を黙殺したということも言われていて、どうもその可能性は無視できないようです。大統領も、その情報が側近までは入っていたことは認めたようです。

 ではアメリカは、これによっていったい何をしようとしているのかといったら、これは間違いなくイラクへの攻撃ですね。イラクという国を、三つに分断するというオプションが以前よりある。モスリムは大きくスンナ派とシーア派とに分かれるのですが、イラクの南部をシーア派の国にして、バグダッドを含む中部をスンナ派の国に、そして北部をクルドゥスタンという、様々な宗派の人たちを統合した国にする。そして南部のシーア派の国にはアメリカのメジャーが入って石油を掘る、というシナリオです。
 では何故そんなことをするのかというと、2050年には石油が枯渇する。へたをすると、動くのはイラクの戦車だけという話にもなりかねない。だからアメリカは、中東の石油への影響力を確保するため、切実にイラクを叩きたがっているわけです。アフガニスタンの場合、アメリカは実は戦争に乗じて、天然ガスのパイプラインを引こうとしていました。
 もうひとつは、イスラエル最大の脅威を取り除き、ユダヤ人という民族に、安堵を与えるということです。ここではアメリカは、ヤーハエの化身であるわけです。アメリカ国内のユダヤ人は、全人口のわずかに2%ですが、彼らの大半は都市部に住み、議会や知的階層の大部分を占めています。彼らは今や、アメリカを動かす力を持っているのです。そして大統領選を通じて、出エジプト記を演じさせようとしている。
 ともあれ、根底には石油の問題があり、表面的な戦いの理由、若者たちの血を燃え立たせる正義として、アメリカ側にはテロ殲滅、モスリム側にはイスラエルと宗教問題があるという構図です。アラブがアメリカを憎むのは、豊かだからでも、核を持っているからでもない。イスラエルを支持しているからです。旧約聖書の世界そのままの対立の構図が、二十一世紀に入ってますます明白になってきたということがいえます。

 

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