<2004年3月5日、吉敷竹史シリーズ、テレビ化ミーティング。>

 後日高田氏が、全吉敷作品を読み直したと言ってくれ、全作の露出を目指して計画を練っている。そのためには最初に、「奇想、天を動かす」くらいの大物を特番枠でぶつけられたらいいのだが、などと言って、全体の露出計画をメイルにして送ってくれた。安井さんもまた、自身の動きをあれこれと報告してくださった。2人の熱意は本物のようで、嬉しかった。
 そうして年があらたまり、1年近い時間が経過して、安井氏、高田氏が、吉敷シリーズの露出媒体を見つけてくれた。TBS、午後9時からのミステリーもの2時間枠で、この日、はじめての顔合わせと、ミーティングになった。
 ミーティングは、赤坂プリンス・ホテル旧館1階にあるナポレオンという古いバーで、午後の1時からとなった。参加者は脚本担当の高田純氏、プロデューサーの安井ひろみ氏、K−Factryというオフィスのプロデューサー、千葉行利氏、光文社、カッパノベルス副編の穴井則充氏、それに原作者のぼくという顔ぶれである。製作収録時の采配を振るうことになる千葉氏も、非常に有能そうな印象の人物であった。
 TBS、月曜午後9時からの2時間枠で露出するが、よほどこけない限り、これからシリーズとしてずっと出していく。吉敷作品大半の露出を目指す。何作か先には、特番ワクとして「奇想、天を動かす」も製作する。こういった、とてもよい話になっていた。しかしそういうことなら向こう十年も続くことになり、よく考えておかないと、通子役の女優をはじめ、配役たちが老けてしまいそうである。
 吉敷役には鹿賀丈史さんが大いに乗ってくれていて、彼はすでに「灰の迷宮」などを読んでくれ、是非やりたいと言ってくれている。早く撮りましょうと言って、もう5月後半からのスケジュールを空けてくれた、そういう話だった。鹿賀さんなら文句はない。吉敷役にはぴたりであろうと思う。
 あとは高田さんの問題で、5月末と収録が決まったのに、脚本はまだ1行もできていない。はたしてできるものかと訊くと、他に仕事が入らなければ問題ないという返事である。

 この時も、だいぶ以前にテレビ化原作のことでぼくが怒っていたという話を高田氏がした。これがぼく自身にはまったく記憶がない。なんでも業界の大物、寺本幸司氏も巻き込んでいた。テレビ局がぼくをなだめるために、当時親しくしていた寺本氏を引っ張り出したらしく、それで彼から高田氏にも話が行った。内容を聞くと、御手洗短編のどれかを、主人公を女性に替えてやらせて欲しい、といったような話だったらしい。
 思わず苦笑したが、確かにそれは受け入れがたい。最初からそういう話し方をしてくれていれば、こちらも断るなり意見を言うなりできたろうが、途中でこっちの顔色を見て話を変える、などということは、当時は日常茶飯であった。今でも憶えているのは「糸ノコとジグザグ」で、製作を進行していったら、一部ナマ放送、局をあげての力作になったので、原作から名前をはずしていいかと問われた。これなども絶句である。
  御手洗さんの態度をそのまま女性がやっては、ただの威張った女になりかねない。あれは変人の男だからいいのであって、そんなあたりの相手の無思慮、つまりそれでどんなドラマが現れるかの洞察力不足に、こっちも若かったから気分を害したのであろう。それとも、もっと別の理由があったのだろうか。
 この時の話もそうだったが、こちらが腹を立て、あちこちの大物を引っぱり廻した(ぼくがやったのではないのだが)というだけのストーリーになっていて、その前に相手が何をしたかは絶対に世に伝わらない。これではこちらが威張り屋になるばかりである。当時はこちらも若輩で、あんまりにこにこ従順であったから、相手はプロ意識をもってこちらに接し、操作しやすいと踏んであれこれをやったのであろう。まあそういう印象は残っている。

 テレビ化第1弾を何にするかという話になり、よければ「寝台特急はやぶさ1/60秒の壁」をやらせて欲しいのだが、という提案が千葉氏よりあった。かまいませんが、「はやぶさ」はすでに1度やっていますよ、と答えた。その時の役者は誰ですかと問われるので、吉敷は三浦友和さん、ほかに松原千秋さん、三波豊和さん、丹波哲郎さんも中村刑事役でちらと顔を出してくれていた、そんな話をした。
 鮮度ということをうるさく言う業界だし、先まで続けるためには、1作目で他との違いをアピールする必要もあろう。そのためには圧倒的に変わったもの、ショッキングな内容を持つもの、たとえば「出雲伝説」などを一発目に投入してはどうかと言ったら、いや、局の方に「はやぶさ」のシチュエーションを話したら、「死んだはずの女がはやぶさに乗っていた? そりゃ面白い」という手応えをすでに得ているので、と千葉氏は言う。穴井氏も、三浦さんの「はやぶさ」はもうずうっと前の話なので、鮮度は問題ないでしょうと意見を言い、そういうことならとぼくも了承して、放映1作目は「寝台特急はやぶさ1/60秒の壁」に決まった。
 ただこの枠は、裏にSMAPの手強いバラエティ番組があったり、タケシのTVタックルとか、NHKのドラマがあったりで、視聴率はもっか低迷しているという。
が、ともかく頑張りましょうということで、ビールで祝杯をあげた。今後このチームで、吉敷シリーズはテレビに露出していくことになる。