<2004年5月1日、2度目の「はやぶさ」ミーティング。>

 新宿京王プラザ・ホテルの3階、カクテル&ティで、午後1時から、2度目の「寝台特急はやぶさ1/60秒の壁」、テレビ化のためのミーティングが行われた。参加者は以前と同じ、K−Factryの千葉プロデューサー、今回はアシスタントの女性を伴っていた。安井ひろみプロデューサーに、脚本家の高田純氏、光文社の穴井氏、それに原作者のぼくという6人である。
 無事完成した高田氏の脚本は、よいできだった。特に冒頭、男が双眼鏡で覗きをしていて、死体の顔の部分がずると視界に滑り降りてくる瞬間、列車通過の轟音が強烈にかぶさってくるあたりは、見事な演出で、大変感心した。大画面の映画館で観たいようなシーンで、1度で消えていくテレビで出してしまうのは、なにやらもったいない気さえした。
 その上で、補強の提案をした。この事件は、死んでいるはずの千鶴子が寝台特急に乗っていて、さらには車内に居合わせたアマチュア・カメラマンに写真まで撮られている、というのが主たる謎であるから、時間の経過が重要になる。視聴者が、この出来事とこの出来事との前後関係はどうであったか、といったことが不確かのままでは楽しめない。本の場合は何度でも前のページに戻って読み直せるが、テレビではそうはいかない。
 そこで捜査一課の刑事部屋で、ホワイトボードでも使い、棒状のタイムテーブルを書いて、刑事の誰かに時間経過の部分部分を説明させてはどうかと提案した。ここで千鶴子の死体が小説家に目撃される。死亡推定時刻はこのあたりで、彼女の乗っていた寝台特急「はやぶさ」は、この時刻に東京駅を出ている。それから列車が**駅あたりにさしかかったこの時刻に、千鶴子は写真家に通路で撮影を撮られている、だからこの時間に彼女が死んでいるはずはないのだ、といった内訳の再説明である。
 タイムテーブルから線を引き、こういうそれぞれの起こった時刻も脇に書き込む。
かたわらに、ブルートレイン「はやぶさ」の写真をマグネットでとめておいてもよい。全体のできごとをヴィジュアル一発で示せれば、視聴者にすぐ謎の構造を呑み込んでもらえる。現状では台詞での説明に終始するので、よほど熱心に観てくれている人以外には、何が謎であるのかが正確に掴みづらいきらいがある、そういった説明をした。
 高田氏は尺(ドラマ全体の時間)のことを気にしていたと言い、それは賛成だと言って、この補強案を受け入れてくれた。ほかにも幾つか考えを述べたが、みんな大変紳士的にこちらの意見を聞いてくれ、やりやすかった。ドラマの骨組はここで決まってしまうので、これは大切な時間である。ディテイルは、現場でも修正がきくが、大枠だけは、現場に入る前に決定しておかなくてはならない。もちろんこちらの思うようなかたちには上がらないのだが、何も言わなければ変化の可能性はない。
 吉敷役の鹿賀丈史さん当人が、冗談めかしてだが、43歳という設定には難色をしめしている、ということを千葉プロデューサーが言った。そうかもしれないが、これはわざわざ年齢の数字など、ドラマの中で口にしなければよかろう、という話になった。また鹿賀さんは、脚本には口を出す方の人だが、今回のこれに関しては、何も言ってはいないという。ただ早くやろうと言っているらしい。
 それから、これはもう最初からシリーズ化を目指してスタートするので、先のために1回目の「はやぶさ」から、もう通子の顔を出しておこうという話になっている。
だから釧路での吉敷と通子の場面がすでに書かれ、入っている。この通子には誰がいいのか、という話になった。ぼくはもう誰も知らないので、これはまかせるよりほかはない。

 オンエアの日取りは未定で、テレビの2時間ものというのは、製作したらその番組の蔵に届けておいて、局側が自分の考えで順次出していくものらしい。だから作ったが日の目は見なかった、というものもたまには出る。「はやぶさ」はそんなことはないし、今あんまりストックがないので、9月くらいにもう出てくる可能性がある、と千葉氏は言った。
 それはよいことなんですかと問うと、あんまりよいことではないです、と彼は言う。何故かというと、これは特番ワクというものがある時期で、注目度はあるが、ここにぶつけていくと、ライヴァルがひしめくので、まず視聴率は取れないという。しかしライヴァルが多くて注目度もあるのなら、これは望むところではないですか? 
とぼくは言っておいたが、まあ、そう単純なものでもないのであろう。
 6月のなかばまでロケをしているので、よければ終了までに帰国して、1度収録を見てはどうか。鹿賀氏にも会っておいてはどうかと高田氏が言ってくれた。できたらそうしたいと応えるが、しかしシリーズ化するのならまだ先もある。そう急ぐ必要もないのではと思っている。