第7銀河のえいこさんのパスティーシュ、「里美の憂鬱」が送られてきましたので、ご紹介しましょう。
とてもよい作品です。里美の女性らしいこまやかな心理の動き、ちょっとした誤解から、深い悲しみに暴走していく乙女心の微妙さが、女性らしい繊細な筆致でうまく書かれており、感心しました。
事件そのものもミステリーとして筋がよく、生涯の終焉にあたり、最後の力を振り絞る男の姿、そして御手洗さんの言う、「男は死ぬまで男なんだよ」といった言葉に、深い感動を覚えました。とてもよいお話を、ありがとうございます。みなさんも是非読んでください。
技術的なことを少しだけ言うと、「三人称も一視点」という大原則があります。まして一人称なら、より一視点徹底が基本となります。つまり石岡君が、「私は」という一人称視線で書いている段落では、里美ちゃんの内面の感情は、地の文では書かないことが規則なのですね。この点でやや原則無視がありますが、よい感じで読まされてしまいますから、あまり気になりませんね。でも里美ちゃんの感情を重点的に描きたい、石岡さんの文章でも、里美ちゃんの内面がつい気になってしまう、こういう予想がはっきりたつようなら、最初から里美ちゃんの一人称で全編を書いてしまう方が安全でしょうね。そういう予測とか計算も、小説書きには必要な能力です。
漢字遣いですが、「持って来る」、「戻り始める」というふうに漢字が2つ隣り合うような言い廻しでは、「持ってくる」、「戻りはじめる」というふうに、漢字はひとつにする方が読みやすいことが多いです。ともあれ、斬れ味のよい、着地も上手なよい作品です。
島田荘司。 |